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提言/直言
交通事故死者数を半減するために

長山 泰久〔大阪大学名誉教授 交通科学研究所 所長〕

 日本の交通事故死者数のピークは昭和45年の16,765人であり、交通安全基本計画では10年間に半減の目標を立てた。9年後の昭和54年には8,466人になり、あと84人で半減目標達成というところまでいきながら、その翌年からまた増加傾向に転じてしまった。第6次交通安全基本計画ではそれを再び減少させ、平成9年までに1万人以下とし、さらに平成12年までに9,000人以下とすることをめざしている。
 平成9年の死者数は9,640人にまで順調に減少していて、今後9,000人への目標達成がさしあたっての課題である。
 平成8年度からの第6次交通安全基本計画策定に当たり、その基礎資料を作成するために行われた「交通事故の長期予測及び基本的対策の評価検討に関する調査研究」では、将来においてもこれまでと同じ対策が実施されているだけでは平成12年の死者数は約12,500人になると予測された。
 この調査研究では交通安全対策の効果の評価検討も行っている。それでみると、最も死者数の低減に効果がある対策はシートベルト着用率向上であると考えられる。現状が続くと平成12年に予測される自動車乗車中の死者数5,400人に対し、前席乗員の着用率を仮に85%まで向上させたときには、概ね1,200人程度、着用率が90%まで向上した場合は1,700人程度、95%では2,200人程度低減させることができると予測している。
 高齢者の歩行者死者数が平成12年では1,900人程度と予測されるが、参加・実践型教育が今後全国の市町村で活発に実施されると概ね100人程度の低減、800人程度と予測される自転車乗車中死者数は40人程度低減の可能性をもつ。
また、事故多発地点の改良では500人程度の死者数の低減が図れると予測されている。さらにエアバッグの装備普及によりシートベルト着用者・非着用者の死者数をそれぞれ7人と60人、計67人程度低減させることができると予測している。ITSの導入によっ240人程度低減というように、それ以外にもいくつかの対策の効果が予測されているが詳細は省略する。
 ここでは運転者教育の効果は述べられていないが、運転者に対して「適切な教育」を行えば大きな事故減少をもたらすという事実を示してみたい。筆者は大阪府下の安全運転管理者講習に講師として参加してきたが、運転者31万人を抱える大阪府下安全運転管理者選任事業所では交通事故件数が平成2年から平成9年までの7年間に57%にまで減少し、すなわち43%低減している。死亡事故件数は9%まで減少したが、件数自体が少数であるので誤差が大きく、経過をさらにみなければならない。
 そこでの講習内容は、事故事例の分析に基づいて事故原因を明確にし、原因レベルからの運転者指導のポイントを示して事業所で活用可能にしたものである。毎年事故類型を変えて講習を行ったが、出合い頭と追突を扱った年には、その翌年にその事故類型が減少するというように講習の効果が認められる。歩行者事故を扱ったときには25%、自転車事故は19%減少と顕著な効果が認められた。
 受講者に対するアンケート調査では事業所で講習内容を活用したものは64%、活用して事故減少に効果があがったとしたものは85%にものぼり、安全運転管理者選任事業所の事故統計にみる事故減少は、アンケート調査からも裏づけられたのである。事故事例分析から運転時の危険源を明確にし、それを危険予測・予知訓練として実施するという運転者教育・指導の方法論が広く活用されれば事故を大幅に減少させることができるのである。
 世界の中で最も着実に交通事故死者を減少させてきた国はドイツである。昨年1997年中の死者数は8,511人であると、本年2月19日のZDFの番組で報道されていたが、この死者数は1970年の21,332人の39.9%になっていて、半減以上の効果をあげている。ドイツの最近の死者数減少は、「医療体制」「エアバッグ」「交通参加者の慎重な運転と行動」によってもたらされたとZDFでは分析していた。
 エアバッグの効果はシートベルトの補助装置でありシートベルトの着用が必要条件である。ドイツの着用率は筆者のドイツ各地の調査では90〜95%に達していて、そのことにより初めて有効に機能したものであろう。
 ドイツにおける交通安全教育のひとつの中心は「交通危険学」である。状況の読み、危険の察知の教育・訓練が幼児から始まり、学校教育、運転者教育、高齢者教育の中で一貫して実施され、安全行動のとれる交通参加者育成に大いに寄与している。
 日本においても「有効な交通安全教育」の実施が今後の交通事故死者数減少の大きな鍵であることを主張したい。

(ながやま やすひさ)

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