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駐在員・見てある記
USA・Now
ワシントン事情あれこれ
瀧  誠行
〔北米日産 ワシントン事務所 DIRECTOR〕

 このコラムに、過去ワシントン駐在員として寄稿された諸先輩のコピーを拝見し、気がついたことがある。すべての方が4月号に寄稿し、当地ワシントンの“桜”を紹介されていることである。ワシントン=桜=4月というイメージが『JAMAGAZINE』に定着しているということだろうか。従って、私も当地駐在員の季語として“桜”について触れなくてはならないとの強迫観念にかられている。
 当地日本商工会会報の最新号に、ワシントンの桜にまつわるエピソードが紹介されている。“ポトマックの桜”としていまや世界中にその名は有名であるが、1870年当時のポトマック川の川岸は、ホワイトハウスから割合近くに位置する荒涼たる沼地で、雑草が生い茂り、蚊が繁殖し、さまざまな病気の原因となるなど、ワシントンD.C.で最も望ましくない場所のひとつだった。そこで大規模なポトマック川土地改良・公園事業が行われることになった。その計画を知ったアメリカ人女性作家エライザ・スキッドモア(同女史は20世紀初めに日本を訪れ、数々の日本の風土、文化を紹介した)が土地改良後のポトマック川岸に日本の桜を植えて東京の隅田川のような名所にしようと、当時開発担当であった大統領夫人ヘレン・タフトに直接働きかけたことにより、桜をめぐる壮大な日米友好のドラマが始まったとされている。今でも春を迎えると、当時植樹されたサクラが元気に美しい花を咲かせている。このサクラが絶えることのないよう願いたい。
 ワシントンはご承知の通り政治の都市で、当地で働く多くの人が政治に関連している。80年代以降、日本経済の規模が拡大するにつれ、通商問題の多発もあり当地の日系事務所、日本人の数は急増したと言われている。しかし、近年の日本の不況の影響は当地ワシントンにも及んできている。日本でのリストラを受け、銀行・証券関連の日系事務所が次々撤退するとともに、製造分野の日系事務所も規模縮小がみられる。私の赴任直後の4年前と比べると、総じて駐在員の方々の厳しい表情が最近目立つように感じられる。しかし、日本人が皆そうというわけではなく、反対にますます元気な方々もいる。当地で働く日本人女性である。場所柄、私はさまざまな勉強会やセミナーに参加する機会が多いが、そこで積極的に質問し、自分の意見を述べる日本人女性は多い。こうした女性は、議会スタッフや当地のシンクタンク、コンサルタント会社、米国企業に勤務されている方々である。彼女たちに聞くと、日本企業を辞め、米国の大学院に留学し資格を得た後、日本に帰らずそのまま現地採用され、米国人スタッフとまったく同等の条件下で仕事をされている。本社からサポートされている日本人男性駐在員と比べると、やはり彼女たちのたくましさが目立ってしまう。彼女たちから見れば、日本の企業はまだ男性社会で、彼女らのスケールに合致していないということなのかもしれない。こうした現象は、おそらく当地のみではなく世界各地で起きているのではないか。日本の企業をグローバル・スタンダードに合わせていく必要性が問われているが、こうした海外で活躍されている日本人女性を日本の企業が受け入れできるか否か、案外このあたりにひとつの解があるのかもしれない。
 自動車関連に話題を移したい。ワシントンで見るクルマも近年ミニバン、SUV、ピックアップ・トラックの多さが目立つ。しかも年々、高級かつ大型化している。米国自動車市場では、いまや乗用車とトラックの比率がほぼイコールか逆転しつつある。中西部へ行けばこの傾向はさらに顕著である。米国経済の好調、ガソリン価格の低位安定がその理由となるのだろうが、なぜアメリカの人たちがこれほど、トラックやトラック派生のクルマが好きなのか。昨年秋、ラスベガスで毎年開催されている米部品団体が主催するSEMA/MEMAショーへ出張する機会があった。同ショーは幕張の東京モーターショーに匹敵する規模のショーだが、クルマに関連するありとあらゆる部品、アクセサリー、工具類が展示されており、たいへんな盛況ぶりだった。こうした部品をつけた改造車の展示は圧倒的にピックアップ・トラックやSUVである。
 今年1月のデトロイト・モーターショーでも主役は同じである。アメリカ人は歴史的に人の移動、モノの輸送、労働の手段として馬を用い、彼らの生活に非常に密着した存在であったのが、時代が変わり、今ではその代わりをピックアップ・トラック、SUVが担っているということではないか。もともと中西部では地域性でピックアップ・トラックが多いわけであるが、大都市近郊でも増えているというのは、やはり彼らがかつて立派な馬を愛し、所有することを自慢した時代に由来しているのではないか。環境問題が世界的に叫ばれているなかで、こうした米国の傾向がいつまで続くかは知るよしもないが、少なくともガソリン価格の高騰が起きない限り、「立派な馬」を米国人が手放す気にはなかなかならないのではないかと考えてしまう。確かに大型ピックアップ・トラック、SUVは格好良く、アメリカの国土によく似合う。
 昨年末、ワシントンに拠点を置く米国自工会(AAMA)が解散し、1月、新たに外国車メーカーを加えた新米国自動車団体(AAM)が発足した。最近、同団体の専務理事としてEPA(環境保護庁)勤務経験のあるジョセフィン・クーパー女史の就任決定が発表された。ご存じの通り新団体は、環境、安全等技術案件を中心に活動する団体となる。もちろん通商問題の関心がGM、フォード等から消えた訳でなく、彼らは独自にコンサルタント会社を設け、通商分野での監視を怠らない。昨年以降、対日貿易赤字の拡大が再び顕著となり、米議会や産業界・労組の日本を見る目は徐々に厳しさを増し始めている。引き続き注意は必要である。
 一方、ダイムラー・クライスラーの合併や弊社とルノーの提携のごとく、国境を越えたメーカー同士の個々のつながりは、資本形態、技術提携、合弁事業などさまざまな形態で日本車メーカーを巻き込み、今後さらに加速していくことになろう。こうなると、これまで政府が前面に立ち国家間の紛争として行われていた通商問題は、企業から見た国境の垣根の高さが各社バラバラとなるなかで、今後ますます複雑化していくのではないか。当然、日本車メーカー間の調整を行ってきた自工会自体も、運営がむずかしくなり、組織のあり方を再構築していかねばならない時期を迎えているのではないかと、ワシントンでの業界団体の変貌を目の当たりにした者としてそう考えてしまう。
 思考が凝り固まり始めた私にとって、グローバル化とは悩ましいキーワードである。

(たき のぶゆき)
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