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成熟化が促進した無彩色志向
1)パーソナル志向とヤングのカラートレンド
 73年、79年と、2度のオイルショックに見舞われた70年代であったが、日本の経済成長は基本的に順調に進み、80年代に入るころには、生活に必要なモノは一通り行き渡った。「なくては困る」から「あったらいいな」に消費マインドは変わってきた。戦後、「初めての所有(普及率のアップ)」を目的に発展してきたモノ産業は、さまざまな市場で成熟化し、新たに「必要性の創出」「欲求の創出」をしていかなければ消費が促進できない時代に入ってきた。
 高額品であるクルマにしても、70年代半ばに1世帯当たりの普及率は50%を超えている。クルマも、徐々に「一家に1台」から、「私の1台」に変わっていった。その現れのひとつがヤング対象の2ボックスカーである。それまで、ヤングの憧れとクルマを結びつけたのは、「スポーツカー、スペシャルティカー」で、ある種マニアのための市場であった。それが78年の2代目スターレット(トヨタ)、初代ミラージュ(三菱)あたりから、2ボックスカーがちょっと贅沢な若者の道具として認知されるようになった。

写真7 シティ(赤)1981/ホンダ
写真7
 このジャンルでは、鮮やかな赤、黄、緑といったカラーバリエーションが若々しいイメージの色として訴求された。そして大ヒットしたのが80年の赤いファミリア(マツダ)である。翌81年には初代シティ(ホンダ)も登場し、かわいいイメージ、スポーティなイメージの赤は、83-84年調査の約20%をピークに人気を博した(写真7)。
2)高級志向とカラートレンド
 「あったらいいな」の80年代におけるクルマ産業のメインキーワードは「高級・高性能」であり、高級スペシャルティカーの市場の誕生とターボブームで始まった。80年代初頭、初代レパード(80年・日産)、初代ソアラ(81年・トヨタ)といった高級スペシャルティカーが相次いでデビューした。
 高級スペシャルティカーの売り文句は明るい未来を思わせる「先進テクノロジー」であり、ソアラを例に取れば、その演出に一役買っていたのがデジタルメーターやボディカラーの控えめな色調のゴールド、そして「スーパーホワイト」であった。その白は、これまでの多少なりとも黄みがかっていた白とは違い、限りなく色みのない純白で、ホワイト人気を牽引した大ヒットカラーとなった。80年代半ばのハイソカーブーム(ハイソ=ハイソサエティの略語)に象徴されるように、80年代のクルマの多くには「上級・高級」が求め続けられた。ホワイト人気がピークを迎えた85-86年調査、86-87年調査では約75%のシェアを占めていた。このような人気色の一点集中の動向は欧米には見られない傾向で、右へならえの日本のマーケット特性を反映していた現象と言える。
3)バブル景気とカラートレンド
 経済的に豊かになった日本人は、高価なモノを買うといった消費活動だけにとどまらず、金で金を生むという経済活動に邁進していく。
 一般生活者までもが投資者となった、いわゆる「財テク」ブームである。そうした風潮は80年代末のバブル景気を生み出していった。
 こうした社会情勢下、シーマ(88年・日産)やセルシオ(89年・トヨタ)、インフィニティQ45(89年・日産)といった、それまでの最高級セダン、クラウン(トヨタ)、セドリック(日産)よりも、さらに1ランク上の高級車が登場する。これらは「シーマ現象」という言葉が残っているほど売れた。
 当然、「さらに1ランク上の高級車」を表現するためのボディカラーが求められた。そこで脚光を浴びたのが、高質感ダークカラーであった。セルシオのデビューに際して、トヨタは通常のアルミやマイカ(雲母)よりも粒径が大きく、強い輝きを持つ光輝材MIO(マイカシアス・アイアン・オキサイド=鱗片状酸化鉄)を採用し、ダークグリーンMIOをプロモーショナルカラーとして打ち出している。その後、トヨタは3代目ソアラ(91年)、初代ウィンダム(91年)、7代目マークII(92年)など、さまざまな高級車でダークグリーンを展開し、高級車のイメージカラーとしてヒットさせている。
4)ポストスーパーホワイトのシルバー系

写真8 コスモ(ガンメタリック)1990/マツダ
写真8
 ホワイトが減少するに従って、ポストスーパーホワイトとしてシェアを伸ばしていったのが、グレー系(シルバー系)である(写真8)。
 シルバー系が伸び始めた80年代末は、8代目スカイライン(89年・日産)や初代プリメーラ(90年・日産)、ユーノス・コスモ(90年・マツダ)にみられたようなスポーティイメージのガンメタリック(ダークシルバー)のヒットによる影響が強かった。その後は、初代アリスト(91年・トヨタ)のスポーティなライトシルバーのように、人気のトーンがダーク系からライト系にシフトしていき、シェアを拡大している。

5)ホワイトの復活
 いったん主役の座を降り、シェアを失ったホワイト系だったが、94-95年調査の18%を底に再び上昇した。その復活はスペシャルティカーでのスーパーホワイト人気で始まった。スペシャルティカーのカラーとしては「目立ち」が重要視される。シェアが減少することで希少価値となり、一度はありふれた色として飽きられてしまったスーパーホワイトが、スポーティで目立つ色として人気となったのである。
 最新の98-99年調査で、ホワイト系のシェアは約30%にまで伸びている。これは、もちろんスポーティなホワイトだけによるものではない。96年のマークII(8代目・トヨタ)のために開発されたホワイトパールマイカに代表されるように、上質で品のある白が次第に浸透してきたことも大きい。またマークII同様、白のボディカラーに人気があるクラウン(トヨタ)が、昨年11代目としてフルモデルチェンジしたが、その際にもホワイトパールクリスタルシャインという輝き感の強い白が新開発されている。

21世紀のクルマのカラーデザイン
1)JAFCAが始めた「オートカラーアウォード」
 クルマのカラーデザインへの消費者の関心は、造形デザインに比べ低い。メディアも然り。そして、メーカーにも造形デザイン偏重の傾向があり、カラーデザインの優先順位は低いようだ。しかし逆に、今後の市場戦略として、高い可能性を秘めている分野とも言える。そのためには「カラーデザイン」というデザイン要素そのものの認知を、業界の内外に広めていかなければならない。
 そうした活動の一環としてJAFCAは、99年1月より「オートカラーアウォード」と題して、クルマのカラーデザインの顕彰を開始した。

写真9 第1回グランプリのハリアー(スパークリングゴールドメタリック
写真9
 第1回のグランプリは、ハリアー(トヨタ)の「スパークリングゴールドメタリック」(写真9)。
 この色の授賞理由は、「上質でラグジュアリーな“ニューコンセプトSUV”をイメージしたデザインにベストマッチしたボディカラーで、SUVの新市場を切り開いた/従来のアルミ粒子に比べ粒径がやや大きく、粒径のそろった質のよい新規アルミを使用することで高いフリップフロップ性、高輝度感を実現/ライオンのCFが功を奏し、日本市場で人気のなかったゴールドの色域でシェア20%に」というものである。

写真10 第2回グランプリのヴィッツ(ペールローズメタリックオパール)

写真10
 そして今年、第2回のグランプリは、ヴィッツ(トヨタ)の「ペールローズメタリックオパール」(写真10)。その授賞理由は「自動車という機械工業製品において、これまでにないソフトでフェミニンなテイストを開花させた功績は大きい/ピンク-ローズ系はファッションカラーとしても注目すべき色域であり、流行色に敏感な女性ユーザーが多いであろうヴィッツにふさわしい選択と言える/フェミニンなイメージが強すぎると自動車に似合わない色になるが、このペールローズメタリックオパールは、シェード面がブルーがかって見えるように光輝材を工夫したことによりフェミニンさを適度に抑えている/ヴィッツのスタイルがカタマリ感の強いものだけに、このようなパステルトーンを塗ってもひ弱に見えない、という点も成功要因であろう/また、発売初期受注でペールローズメタリックオパールが多かったことに即応して広告宣伝における訴求色をこの色に切り替え、さらなる拡販を実現したことは、自動車業界におけるカラーデザインの意義の大きさを象徴するものである」である。
 グランプリ以外にも、さまざまな賞が設けられ、カラーデザイナーたちの思いのこもった多くのカラーデザインが選ばれている。誌面の都合から、ここではすべてをご紹介できない。詳細に関してはJAFCA発行の『流行色』誌をご覧いただきたい。
 この顕彰自体は、まだ試行錯誤の段階であるが、クルマ業界を取り巻く多方面の関係者のご支援をいただきながら少しずつ成長させていきたい。本誌の発行元・日本自動車工業会にも、ご後援をいただいている。誌面をお借りして御礼申し上げたい。
2)クルマの白物家電化を防ぐために
 かつて、クルマを所有することは、生活者の夢だった。しかし、生まれたときから、当たり前のレベルで自家用車があった若者たちにとって、クルマの存在自体は夢でもなんでもない。大人たちもライフスタイルに対する価値観が多様化し、RVというジャンルがトレンドとなった。また、地球の環境問題などの影響で、エコロジー意識を強く持つことがインテリジェンスの証や望まれる人柄となり、燃費の悪いクルマに乗ることは非正義となった。
 これらのさまざまな要因によって、車格に対する消費者の意識は確実に変わってきている。「いつかはクラウン」という上昇志向の呪縛は着実に解けつつある。
 一方、クルマ業界ではデジタル管理された生産志向が進み、デザインの無個性化が指摘されており、ヤングのクルマに対する関心の低下と相まって、クルマの白物家電化が問題視されている。もともと工業製品という意味で、クルマと家電は同様のプロダクト製品である。しかし寿命後の買い替え需要だけで成り立つ産業ではなく、さまざまな手法を考え、商品の購入を促進しなくてならない。最近の状況で言えば、家電業界ではコンピュータや携帯電話のようなIT(インフォメーション・テクノロジー)関連といった新ジャンルの誕生によって新展望が開けた。クルマの場合、RVブーム、軽自動車の新規格効果といった需要があった。今後の新需要はハイブリッドカーや燃料電池式自動車といった動力システムの進化によるのだろうが、既存のクルマ市場のスケール自体がどれほど広がるかは未知数だ。IT革命の場合、新市場の創造が容易に予想できるが、クルマの場合、あくまでタイヤを転がして移動する道具の範囲を超えられない。空を飛んだり、海を渡るようになれば、話は違ってくるのだろうが。
 道の上を走って移動する道具というだけでクルマ業界が発展していくには、ファッション産業化の方向へ消費者意識をシフトさせていくのも有力な選択肢のひとつとなる。「ファッション産業化」の本質は何か。言うまでもなく「デザイン」である。デザインという要素のなかには、繰り返しになるが、大きく言えば、形と色がある。クルマ業界を私なりにみていると、「形がつまらない」という声は届いているように思える。メーカーの回答が本格化するのはこれからという段階だが、造形の新しさについては強く意識しているのだろうと思う。
 しかし、色についてはどうか。色は工場の都合に合うものの中から6色前後を選べばよいという考え方が、経営サイドとしては強いのではないだろうか。形に比べ、色が軽んじられているということに異論はなかろう。
 消費者主導のマーケティング観にのっとれば、オーダーメイドをできるだけ安い価格で提供することをめざせばよい。確かにこうした考え方はある面で必要で、トヨタがbBを「東京モーターショー」でなく、今年の1月の、改造車の祭典「東京オートサロン」で大々的にデビューさせたことはユーザーの主体性を重視した試みとして注目される。今後もこうした素材車提供というアプローチは増えていくだろう。このことをボディカラーで考えれば、「色はユーザーの好みでどんな色でもOKです」ということになるのだろう。
 しかし、こうしたアプローチにボディカラーは向かないと私は思う。自分のイメージ通りに仕上げるのはかなり難しいからだ。特に、あまり見かけない色を塗って自分のイメージと合致させるのは、普通の人にはできない。私にもできないだろう。
 それよりは、カラーデザイナーが試行錯誤を繰り返したうえで、このクルマにはこの色が一番というアプローチを期待したい。クルマのコンセプトにもよるが、カラーの選択肢は多ければ多いほどよいというわけではない。10色展開がふさわしい場合もあれば、1色オンリーという場合があってもよい。色とはそういう性格のデザイン要素ではないだろうか。また、例えば5色展開のセダンの場合でも、ホワイト、シルバー、ブラック、ダークブルー、ダークレッドというばらけた色の展開ではなく、ソリッドピュアホワイト、パールホワイト、クリスタルホワイト、パールオフホワイト、ソリッドオフホワイトといったように、徹底的にホワイトにこだわったカラー設定があっても面白い。
 礼服の黒のように徹底的にこだわった深黒、微妙な色のニュアンスの違いが命のスーツのネービー、カラーバリエーションの豊富さが魅力の無地のTシャツがあるように、クルマによって必要とする色、色数は違うはずだ。
 このようにメリハリのある提案をすることで、カラーデザインに対する関心は必ず高まる。とりたてて色に関心がないユーザーにとって、今のカラー提案のやり方は漫然としていて、色を通して伝わってくるものがほとんどないのだと思う。奇しくも、2回のオートカラーアウォードでグランプリとなった色は、どちらも日本で不人気だった色域だが、ともに20%以上のシェアを得たのである。見慣れていない色でもプロモーション次第で色の魅力は伝わり、保守的な色の選択に陥りがちな消費者にも受け入れられるのである。
 クルマはなぜ家電と違い、人に愛される対象となり得たのか。それは、顧客の感情に訴えかける生産者たちの思いを内包していたからに違いない。今後も生産者側の真摯な思いが伝わるモノづくりが不可欠である。そしてその思いを伝える宣伝、営業活動もまた不可欠なのである。これからは色、形を総合的にとらえたデザイン開発はもとより、宣伝、ディーラーでのVMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)といった一貫した戦略によるプロモーションが必要なのである。こうした考え方が、ファッション産業のブランドづくりに極めて似ていることに皆さんは気づくはずだ。

(かわむら まさのり)



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