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交通事故防止に必要な ヒューマンファクター的視点

長山 泰久
[交通科学研究所 所長]


1.最近の交通事故の動向

 交通事故による死者数は平成8年に1万人を切ってから順調に減少してきたが、11年には9,006人と第6次交通安全基本計画の目標値である9,000人にあと一歩と近づきながら、最終年である平成12年には9,066人と足踏み状態になっている。だが、今後も死者数を減少させようとする官民挙げての努力は強力に行われるであろう。
 一方、事故発生件数は前年比9.6%増、負傷者数は10.0%増と増加傾向が著しく、今後の交通事故全体を減少させる対策が強く求められる。
 交通事故の発生原因としては道路環境・車両条件に比べると、運転者や歩行者の行動に基づくものが圧倒的に多く、9割を占めていると言われているが、特に運転者のエラーに基づくものが問題である。
 死亡事故を引き起こした運転者の違反別構成比のワースト3位までを示すと、最高速度違反(18%)、脇見運転(13%)、漫然運転(12%)となる。また全事故で見ると、安全不確認(26%)、脇見運転(18%)、動静不注視(10%)となる。
 死亡事故に至るのは自動車の運動エネルギー・衝撃力の大きさのもととなる走行速度が当然関わり、運転者はどのような速度で走るべきかを常に考えて運転しなければならないが、事故そのものに関しては、運転者の情報獲得の不適切さが原因となっているので、情報獲得の問題に関して熟知した運転が必要である。安全に運転するためには、クルマの前後左右の運転に関わる情報を的確に獲得するために、どのようなことが重要であり、どのような失敗をしないようにしなければならないかについても真剣に考えなければならないわけである。
 すなわち、脇見は死亡・全事故ともに2位であり、これは運転に関して見ておかなければならない必要対象・事象から目が外れていることを意味している。安全不確認は、運転に関わる必要情報を取らなければならない状態でそれを怠り、またはそれを行ったが見落とした状態である。漫然運転・動静不注視も情報獲得・認知に関わる問題である。

2.安全不確認のヒューマンファクターを考える

 安全確認は安全運転の基本中の基本であり、指導者は運転者に向かって「安全確認を必ず行いなさい」と指導していることでもあり、運転者は十分にそのことを認識しているはずである。だが、事故の26%、すなわち4分の1強は運転者が安全確認を怠ったり、失敗することによって起こっているのである。安全不確認の問題を解決すれば事故の4分の1を減少させることができるのである。
 安全確認はどのような状況で求められて、またどのような理由で怠ったり、失敗しているのであろうか。
 交差点通過時、特に信号のない交差点通過時に左右の安全確認が求められるし、右折時に対向車、歩行者・自転車の存在の確認が求められる。また左折時に左後方から接近する二輪車・自転車、及び横断歩行者の存在の確認も重要である。それ以外に乗降時、発進時、進路変更時、追い越し時、踏切通過時の安全確認が交通の教則では定められている。
 安全確認を省略したり、安全確認を怠ったり、また確認をしながら見落としたりする場合があるが、それはどのような条件で起こっているのであろうか。
1)安全確認の省略(安全確認をまったく行わないで)
1. 運転者が安全確認の必要はないと思い込んでいて(危険予測・予知していないで)

  • 深夜・早朝で人も車もいないと思い込んでいて(時間帯の錯誤)
  • ここはいつ通っても車・人が出てきたことがないので今日もいないと思い込んでいて(過去経験の錯誤)
  • 1台行ったのでもう来ないと思い込んで(確率の錯誤)

2. 運転者が急ぎ・あせりの気持ちで運転していて

  • 予定に遅れそうになって早く通過しようとの気持ちで

3. 面倒な気持ちで

  • 疲れていて
  • 頻繁に安全確認をしなければならないので

4. 他のことに気を取られて

  • 見るものが多くて大切な確認を行わない(右折時横断歩行者)
  • 複雑な行動をとるために(鋭角左折)
  • 携帯電話・同乗者と話をしていて
  • 不審な動きをする車に注意を奪われて

5. 他のこと・悩みごとなど考えごとをしていて

  • 他のことや悩みごとなどを考えていて交差点そのものに気づかずに
カーブミラーの錯角

2)安全確認の失敗(安全確認したつもりで相手方を発見できず)
1. カーブミラーを見たが見落として

  • カーブミラーに映らない部分があることを知らないで
  • カーブミラーが曇っていて
  • 冬季に霜や雪がついてカーブミラーが見えないで

2. 車や歩行者の陰になって

  • 車や歩行者が死角を作ることを知らずに

3. カーブ等の条件で見たつもりが見えなくて

  • 後方が左カーブで発進する際に後方を確認したが接近車が見えず

このように、安全不確認の理由としてさまざまなことが挙げられるが、どのような場合に安全確認を怠りがちになるのか、どのような条件のもとで失敗をしてしまうのかについて、運転者は十分認識していない。これらについて十分に教育することが必要である。
 例えば、運転者は実際の運転においてカーブミラーを多用している。だが、運転者教育・安全教育の内容が規定されている「交通の教則」にはカーブミラーに関して触れられていないので、自動車学校の教育カリキュラムにはカーブミラーの問題は含まれていない。カーブミラーの持つ問題点に関して教えられることはない。
 もちろん自動車学校では停止線で停止し、左右が確認できるところまでゆっくり進み、必ず目視で安全確認するように教えている。だが現実には運転を始めるとカーブミラーに頼って運転するようになり、実際の事故にはカーブミラーに関わる事故が実に多い。すなわち、チラッと見たが車が来ていないようなので進んだところ車が来ていて事故になったというケースが多いのである。カーブミラーが道路に設置されている限りは、その正しい使い方、そしてそれの短所についても教えておかなければならない。
 すなわち、

  1. カーブミラーには死角があり見落とすことがあること
  2. カーブミラーでは接近車の距離・速度が正確に把握しにくいこと
  3. カーブミラーに映った対象は道路の左右が反対に見える錯覚が生じること
  4. 日陰になっている道路が映っているところを黒っぽい車体の車両が走ってくると見落としやすいこと
  5. 夜間無灯火の車両(自転車など)が近づいてくると見落とすこと

などが挙げられる。
 安全確認とは、そちらを見ることであると考えている人がいる。ひどい場合には頭をそちらに向けると安全確認をしたと勘違いしている人もいる。
 確認とは、単に見て情報を取ることを意味しているのではない。見たが、その見た内容が間違っていないかどうかをチェックする心の働かせ方が確認なのである。見ることを第一次心的活動だとすると、見たことが間違っていないかどうかを確かめる確認はより高次の第二次心的活動なのである。見ることよりも、確認することは高いレベルの心的活動なのである。
 見たことが間違っていないかをチェックするためには一度見ただけでは不十分である。横断に際して「右見て、左見て、もう一度右を見て」と教えるが、安全確認の本質を意味しているのである。「安全確認とは車は来ていないと思ったが、本当に来ていないかを今一度見て確かめることである」と教えるのが正しいのである。もう一度左を見てと教えるならばより完璧になる。
 安全確認を行う背景には、「ここで見落とせば事故になる危険がある」という認識がある。言い換えると、ここではこのような危険があるという認識がされていなければ、安全確認が行われない。危険予知・予測が行われていて、はじめて安全確認を行い得るのである。その意味で「危険予知・予測が安全確認の母である」「危険予知・予測なくして安全確認なし」と言うことができる。
 安全確認を怠る条件として「車も人も来ない」という「思い込み」を挙げた。同じことが脇見運転を行う背景にもそのまま当てはまり、「ここは安全である」「前の車はそのまま進む」という「思い込み」がある。逆に言うと、安全でないと思える状況で脇見をする愚かな運転者はいない。
 「思い込み」というヒューマンファクターは人間がエラーを犯す背景にある重大な事故要因なのである。危険予知・予測が運転者の事故防止の教育・訓練方法として重要視されているが、運転席から見た外部状況に関しての危険予知・予測だけでなく、思い込みや急ぎなどの心理的状態が重大な危険要因であることを考えると、ヒューマンファクター・レベルの内容に関しての危険予知・予測の教育・訓練が今後は行われなければならない。


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