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3.歩行者事故の背景を考える―特に高齢歩行者の事故をもとにして

 全交通事故を類型的に見ると、追突事故が30%、出合い頭衝突27%、そして人対車両事故が9%となる。死亡事故だけを見ると、2番目に多い出合い頭事故の16%を大きく引き離して人対車両事故が29%を占めている。
 人対車両事故である歩行者事故のなかで最も問題となるのは高齢者の事故であり、高齢者の交通事故死者の5割は歩行中に事故に遭って死亡している(図1)。それも年齢とともに歩行中の比率は高くなり、75歳以上の後期高齢者では6割を占める。
 高齢社会を迎え、さらに超高齢社会になると高齢歩行者の事故をいかに防止するかは最も重要な課題になる。
 高齢歩行者が事故を引き起こしたり、起こされたりする場合(第1当事者+第2当事者)の原因を違反別に見ると、図2のように半数が「高齢者に違反なし」ということになる。すなわち交通事故が起こる場合の半数は運転者の側に責任があるということなのである。この事実を知ると、高齢歩行者の事故を防止するためには、高齢者自身に教育を行うことはもちろん重要であるが、それ以上に、現在行われていないが、運転者に対して高齢者と事故を起こさないための教育を早急に実施しなければならない。
 高齢歩行者に責任がない事故の典型例として、交差点を右折する運転者が青信号に従って交差点を横断している高齢歩行者を見落としてはねる事故を挙げることができる。
 事故の事例を分析すると次のような原因・理由がある。

図1 交通事故による高齢者死者数の状態別構成比(平成11年)

図2 高齢者歩行者が事故に遭った場合の違反事項構成比
(第1+第2当事者 男性+女性)


 事例1:運転者Aは対向車が来ていたが、それよりも先に右折しようと考え右折を開始した。右折先を若い男性が左から右へ走って渡ったのを見たが、ほかにはいないと思い右折していったところ、ふと気がつくと高齢者Bが渡ってきていて慌ててブレーキを踏んだが間に合わずはねてしまった。高齢者Bは若い男が渡り出したので自分もついて渡っていてはねられてしまった。
 運転者Aは走って渡った男性には気がついていたが、後ろからゆっくりと渡ってくる高齢者の存在にはまったく気がついていなかった。高齢者の存在が見落とされるケースが多いが、その理由として、

  1. 高齢者が身体的に小さいから
  2. 高齢者の衣服が目立たないから
  3. 高齢者の動きが緩慢で目につかない(素早く動く対象は見落とさない)

が挙げられる。
 高齢歩行者の事故事例を見ていると、高齢者がこちらを向いているから大丈夫と考えて目をそらしていてはねる事故がある。

 事例2:運転者Cは郊外の道路を走っているときに道路左端に手押し車の高齢者Dを認めた。こちらを向いているので大丈夫と右前方を見ていて目を戻したところ、高齢者Dが道路に出てきて慌ててハンドルで逃げたが、手押し車に触れたか触れない状態でDを道路に転倒させ、死亡させてしまった。
 手押し車に身をゆだねていたDは手押し車が動いたことで支えをなくして転倒したのであろう。
 高齢者はこちらを見ていても気づいていない可能性があることを示すいまひとつの事例がある。

 事例3:運転者Eは幅員5m程度の道路を走ってきたが、右前方を先生に連れられた幼稚園児の一団が向こうに向かって歩いていて、左前方から高齢者Fがこちらに向いて歩いてくる状況に出くわした。幼稚園児に注意を払いながら走っていたところ左前方の高齢者が道路中央に寄って出てきているのに気づくのが遅れはねてしまった。まさかこちらを向いて歩いてきている歩行者が自分の前に出てくるとは思いもしなかったので目を右前方に向けていたことによって起こった事故である。
 運転者が高齢歩行者の行動特性について十分配慮しながら運転しなければならない項目をまとめると14ページの表の通りとなる。また、高齢歩行者と事故を起こした運転者の側の原因をまとめると左表の通りとなる。
 運転者は、高齢歩行者を見落としやすいという事実、さらにこちらを向いていても高齢者はこちらに気づいていない可能性があることなど高齢者の心理特性・行動特性を考えに入れた運転をすることが求められる。
 これからの交通安全教育・運転者教育のポイントはヒューマンファクター・レベルからの原因分析に基づいた内容を、適切に運転者・歩行者双方に伝えることである。安全運転の基本となる安全確認の問題と、今後も増えることが懸念される高齢歩行者事故を運転者側から防止する必要性・ポイントについて述べてみた。

■高齢者の行動特質

・高齢者は外界への注意力が欠如している
▽高齢者はどちらかといえば外に向かっての関心が低くなり、外出するときにも交通状況に注意していない場合がある(信号無視、周囲に注意しないで横断、自転車で突然進路変更等)
・高齢者の視覚・聴覚は低下している
▽感覚能力が低下しているので、見落としたり、気づかなかったりする場合がある
・高齢者の車の速度・距離判断は不正確である
▽高齢者は近づいてくる車の速度や距離を正しく判断しないで、大丈夫と思って横断してくる
・高齢者は歩行速度・自転車走行速度などが遅くなる
▽高齢者はゆっくりしか行動できなくなり、とっさの場合でも即座に対応できない(走れない)
・高齢者の反応能力は低下している
▽全身反応時間が低下するので、車に気づいても身動きできないで立ち止まってしまうことがある
・高齢者のなかには交通のルールを知らない人がいる 
▽どこを通らなければならないか、どこを横断してはならないか、どこで一時停止しなければならないかなどについて教えられていない(突然道路に出てくる)
・高齢者のなかには自動車の動きの特質を知らない人がいる
▽バックする車の合図や警報ブザー、ホーンなどについて
・高齢者には危険がどのようなときに起こるかについて知らない人がいる
▽運転免許を持っていないので、危険について考えようともしないし、運転経験から学んだこともない(平気で危険なことをする)
・高齢者は自分で判断するよりも人について行動する傾向がある
▽ほかの人が渡るので、自転車が行くのでそれについて渡り事故に遭っている
・高齢者は突然立ち止まったり、横断途中で引き返す人がいる
▽車が来てぎょっとすると驚愕反応で立ち止まってしまう
▽危ないと思うと、道路の半分以上渡っていても、前進するのでなく引き返す

■高齢歩行者と事故を起こした運転者側の原因

・高齢者の存在を見落としている
▽高齢者が身体的にも小さいから
▽高齢者の衣服が目立たないから
▽高齢者の動きが緩慢だから目につかない
▽ほかのことに注意していると、見えにくい存在なので一層見落としやすい
・高齢者の行動を正しく予測していない(思いもかけぬ行動をすることによる)
▽当然待つと思っていたら出てきた
▽立ち止まってしまうとは思わなかった
▽そのまま進むと思っていたら、逆戻りしてきた
▽まさか自分の前にゆうゆうと出合い頭に信号無視して出てくるとは思わなかった
▽歩行者が突然斜めに横断開始するとは思わなかった

 

(ながやま やすひさ)


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