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世界の二輪車事情●ブラジル

頼母子講「コンソルシオ」で買ったバイクと
盗難被害に遭うバイク

前原 孝次
【モトホンダ・ダ・アマゾニア・リミターダ
テクニカルアドバイザー】

■多国籍にして無国籍!? ブラジル


サンパウロのモトボーイたち

 ブラジルはよく「2つの国が同居する」と言われます。サンパウロやリオデジャネイロのような世界的にも有名な大都市もある一方で、アマゾンなどの大陸の奥地にはいまだにインディオが昔ながらの生活を営んでいたりすることにもよります。
 人種も実にさまざまで、先住民のインディオ、大航海時代に乗り込んできたポルトガル人、そのポルトガル人と一緒にやってきた黒人、これらが混血して実にさまざまな肌の色の人がいます。南のほうにはドイツ系・イタリア系移民も多く、また、日系人を含めた東洋人もかなりの数です。
 それら約1億7,000万人の人々が日本の約23倍という広大な国土に住んでいます。多国籍にして無国籍、そんなおおらかな国がここブラジルです。
 われわれのモトホンダ・ダ・アマゾニアはアマゾン州のマナウス市に工場を持っています。アマゾンの地域開発を目的として州政府が企業誘致のために税恩典のインセンティブを与えており、工業団地内には国内外から数百社の企業が進出しています。
 アマゾン川とピラニアで有名なアマゾンのジャングルに、年間60万台もの生産をしている二輪車工場があるとはなかなか信じてもらえません。工場見学に来た人は皆、そのギャップに驚きます。

■都会のモトボーイ、地方では馬代わり?
 私の住むサンパウロでは、バイクと言えば「モトボーイ」、つまりバイク便を生業としている人たちが主なユーザーです。サンパウロ市内には20万人ものモトボーイがいるとも言われており、彼らの運転はプロフェッショナル…、と言えば聞こえがいいのですが、実はこれがなかなか荒いのです。
 背中に企業の書類が入ったバッグを背負って、渋滞する幹線道路のクルマのすきまをヒョイヒョイとすり抜けていきます。クルマのミラーに接触したりすることは日常茶飯事。ドライバー諸氏からはあまり評判がよくないようです。
 これが地方の田舎に行くと一変します。ここではバイクが自動車代わり。つまりクルマを買えない人たちが移動手段としてバイクを購入するのです。ご主人の通勤手段、親子3人乗りでのお買い物、馬代わりに重い荷車を引いたり、若い男の子は女の子たちの目を引くナンパの道具として…、その使われ方は実に多様で、われわれメーカーの想像をはるかに超えます。
 考えてみてください。月収が200ドル程度しかない人がその10ヵ月分もするバイクを買うのです。それはそれは一家に1台の宝物で、彼らはいつもピカピカにして実に大事に乗っています。
 そのせいか、驚くべきはそのリセールバリューの高さです。新車で買って2年後に手放しても新車価格の8割くらいで売れたりします。ハイパーインフレ時代にはタンス預金代わりにもなっていた、という話もあながち嘘ではなさそうです。

■頼母子講「コンソルシオ」でバイクを買おう
 ブラジルのバイク事情を語るのに忘れてはいけないのが、「コンソルシオ」というユニークな購入方法です。いわゆる「頼母子講(たのもしこう)」で、わかりやすく言うと共同購入制度です。
 「バイクは欲しいけれども現金一括では買えない」「クレジットは金利が高く、審査も厳しく使えない」「月々少しずつだったら払えるのに」といった人たちがある程度の人数集まり、毎月お金を出し合って1台ずつバイクを買い、くじ引きで当たった人から順番に引き取っていくシステムです。もちろん実際にはそれを管理する会社があり、引き渡しも公正な抽選の下に行われます。
 昨年弊社が販売した50万台のうち、約半数の25万台はこのコンソルシオによるものでした。現在でもさらに数十万人のお客様が「当選待ち」状態なのです。このところ金利が低下し、クレジットもかなり伸びてきましたが、まだまだこのコンソルシオが主役であることには違いありません。
 ブラジルにならえとばかりに、いろいろな国でこのコンソルシオ販売にトライしていると聞きますが、なかなかうまく定着していないようです。それは早めに当選した人が「残金を踏み倒して行方知れずになってしまう」からです。
 意外? かもしれませんが、ブラジルではこの「事故」が非常に少ないのです。収入が低い人ほど支払いはキチンとしていると聞きます。ラテンというと「陽気でいいかげん」というイメージがありますが、ブラジル人は相互信頼の精神を持ったプライドの高い人種なのですね、実は。

■盗難、いや強盗されるバイク
 ここではバイクの盗難が非常に多いのが悩みのタネです。困ったことに、いわゆる「置き引き」よりも「強盗」が多いのです。信号待ちなどで止まっていると、道路脇から突然2人組みが現れ、脅してバイクを乗り逃げする、というパターンです。
 そのバイクは間もなく解体され、部品単位で闇業者に流れ、最終的には部品屋さんの店頭に並びます。人気があるバイクほど盗まれやすいのですが、その一方どこででも交換部品が安く手に入り重宝するという、実に皮肉な相関関係になっています。
 一度私たちのお客様にアンケートを取ったところ、実に15%もの人が盗難に遭った経験があるとの回答がありました。盗難保険は車両価格の半額以上もするため、保険制度は機能せず形骸化しています。これらの悪循環を断ち切り、お客様が安心してバイクに乗れる環境を作り出すことが、われわれバイクメーカーの使命だと言えます。

■バイクより、今はサッカーW杯の予選
 ブラジルのモータリゼーションはいきなり自動車から始まりました。今では私たちホンダを含め世界の大手自動車会社11社が工場進出し、世界中でも例を見ないくらいの激戦区となっています。
 バイクは年間10〜20万台程度の市場でしたが、1994年のレアル・プラン導入によりハイパーインフレが収まったころから次第に拡大していき、昨年は57万台もの国内販売がありました。それでも100万台の市場がある自動車にはまだまだ及びません。
 ブラジルは貧富の差が非常に大きい国です。クルマを買える層はごく一部であるのに対し、バイクを買える人は相当数います。それゆえ、二輪車の市場はまだまだ大きく拡大する潜在性を秘めています。
 大きく飛躍する節目があるとしたら、それはブラジル国民全員が「大国」の自覚を持って政治や企業活動に取り組み、経済が活性化し、所得水準がグンと伸びたときでしょう。
 とは言っても、当のブラジル人たちの当面の関心事項はサッカー・ワールドカップで「まさかの予選落ちをしないかどうか」のようですけれども…。

(まえはら こうじ)


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