息吹
スクーターの新ジャンルを開く
「スポーツコミューター」への挑戦
〜500cc欧州向けモデル ヤマハ TMAXの開発〜
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天野 浩一
【ヤマハ発動機株式会社
MC事業本部 GEMセンター
プロダクト統括部
第一PM室走行実験担当】
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足立 吉彦
【ヤマハ発動機株式会社
MC事業本部 GEMセンター
プロダクト統括部
エンジン開発室 第一設計グループ
設計担当】
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天野浩一さんは、
1989年入社。車体設計を担当、その後、スクーターの実験全般を担当し、TMAX開発プロジェクトでは、走行安定性をメインに走行実験のまとめを担当した。 |
足立吉彦さんは、
1982年入社。二輪車CKDモデルや小型スクーターの走行実験を担当。その後、原動機全般の設計を担当、TMAX開発プロジェクトでは、エンジン全体のまとめを担当した。 |
2人乗りで高速ロングツーリングできるスクーターをめざして

2人乗り・高速ツーリングでの快適な走行をめざして |
足立:ヤマハは1997年に本格スクーター「マジェスティ250」を開発して欧州市場に投入しています。この250ccスクーターのお客様に聞いてみたところ、スクーターの本来持っている快適性・利便性に併せて、よりスポーツライクで、より広範囲な高速ツーリング機能を求める声が多くありました。例えば、イタリアのミラノ、ローマ、ナポリという都市間、だいたい100〜300kmの範囲をビジネスで移動したり、また、週末に恋人や奥さんを乗せて2人乗りで快適なツーリングをしたいという要望が多くありました。
そこでわれわれは、都市内を走る快適な「コミューター」であると同時に、高速道路やワインディングロードを走れるモーターサイクルのような「スポーツ性」を両立させた、一言で言えば、「スポーツコミューター」というまったく新しいジャンルの乗り物の開発にチャレンジしたのです。
開発プロジェクトは、達成目標として、
(1)タンデムも含めた高速での快適な運動性
(2)モーターサイクル感覚の操縦安定性
(3)優れた利便性と快適性
を設定し、欧州での使用環境に適応するため最高速度160km/hをめざし、これを実現するため、排気量を500ccに設定し、開発をスタートしました。
天野:私は、走行実験を担当しましたが、500ccのエンジンパフォーマンスに負けない車体、しかもそれを持続し、安定して走行できるスタビリティを確保した車体づくりが課題でした。ただ、スクーターでありながら160km/hで走るクルマは世界中どこを探してもなかったわけですから、対抗モデルがなく、目標をどこに置くか、どこまでやればいいという解答もありませんでした。開発の過程では、正直言って「スクーターでここまでやるか」という葛藤の連続でした。
とはいえ、スクーターで160km/hをめざすのであれば、当然それはその車速でも安定してエンジンパフォーマンスを発揮できる車体づくりを追求していくことでした。高速で走ると、どっちにいくかわからないようなスクーターを市場に出すわけにはいかないですから(笑)。
新しいジャンルのクルマには、新しいエンジンを
足立:スクーターで500cc、160km/hへの挑戦は、エンジン担当にとってももちろん初めてのことです。スクーターは構造的にフロアトンネルがあり、その下にエンジンをレイアウトします。そのため、コンパクト設計の水平シリンダーを採用した並列2気筒4バルブ499ccエンジンを新しく開発しました。
このエンジンの構造的な特徴のひとつは往復ピストン式バランサーを採用したことです。通常、スクーターのエンジンは、ユニットスイング式のリンクマウントを採用し、車体への振動伝達を抑えていますが、この方法ではエンジンと車体が別々な動きをしてしまい、車体の剛性を高めることがむずかしく、高速時の走行安定性にも影響してきます。そこで、われわれはモーターサイクルのようにフレームにリジットにエンジンをマウントさせています。そうすると、今度はエンジンの振動が車体に直接伝わってきますので、往復ピストン式バランサーを採用することによってエンジン自体の振動レベルを抑え込んだのです。
また、ほとんどのスクーターはオートマチックでVベルト無段変速という駆動系の機構を持っています。ゴムベルトCVTを使用して、アクセルオンオフするだけで全域でスムーズかつパワフルな走行性能を発揮しつつ、高いレベルの信頼性を確保したエンジンの開発には、本当に苦労しました。
このようなエンジン構造そのものが従来のスクーターにない構造になっています。
エンジンパワーに負けないボディ、走行安定性の徹底追求
天野:まったく新しいジャンルへの挑戦というなかで、特に、スクーターはバイクのようにタンクを足で挟んで運転するニーグリップ走行ではありませんので、走行安定性を高める努力はバイク以上にやったつもりです。例えば、サスペンションです。走行安定性を高めるためには、サスペンションのストロークを長くとり、かつ高いサスペンション性能にすることが必要でした。リヤサスペンションは、エンジン直付けであるため、エンジン側に車体側の要求を満たすように構造の変更の検討をお願いしました。逆に、エンジン設計側から車体側に対して、「このようにできないか、こうしてくれ」といった具合に、われわれ車体側とエンジン側とのキャッチボールは数知れずありました。
足立:あるコンセプトの実現化という共通の目標に向かって最高のものを作ろうとしているわけですから、お互いに追求し合いました。技術的なアイデアなり、考え方はさまざま出てきますが、到達点、目的は一緒です。なかでも高速の走行安定性を高めるということでは、前輪分布荷重を47%にとって、エンジンを車体に対して前にレイアウトしたことが挙げられます(注:マジェスティ250では38%)。これは、エンジンと車体それぞれうまく連携しながら、スクーターとしての車両形態に適合した全体レイアウトができたことが、その決め手となりました。また往復ピストン式バランサーの採用は、エンジンの低重心配置を可能にさせ、スクーター特有のヘルメット収納スペースや14L大容量の燃料タンクなどのスペース効率を高めることができましたし、デザイン的にも外観上サスペンションユニットがむき出しでないスポ−ティなものになっています。
スクーターのユーティリティと「走りの楽しさ」の両立
天野:走行実験の初期の段階では、安全上の問題点や不快を感じさせるような点をすべて洗い出し、その一つひとつを改善して消していきました。そのうえで、二輪車の楽しい部分であるスロットルを開けて加速して、曲がったり、止まったりという二輪車の魅力の部分における“味つけ”を行っています。
従来から言われているスクーターらしさを優先させようとすると、荷物の収容量をできるだけ大きくして、また足着き性を良くしようということになります。しかし、TMAXでは今までのスクーターにはない走りを追求することの結果としてシートが高いものとなっています。
足立:そうした走りの追求と同時に、シリンダーヘッドの排気ポートで排気にエアを加えてやって、後処理で排出ガス低減を図る「エア・インダクション・システム」を採用することによってヨーロッパ規制に対応しています。引き続き始まるもっと厳しい排出ガス規制EU2への対応も考えています。
スポーツコミューターの感動を世界中の人たちに体験して欲しい

TMAXの走行実験 |
天野:開発の過程で“本場”のヨーロッパでの現地走行テストをやったり、現地スタッフのライダーの意見や考え方、イメージを相当取り込んでいきました。やはり国内では見られない部分、現地でないとわからない隠れた部分がずいぶんありました。例えば、日本の高速道路はどこも路面が平らですが、ヨーロッパではうねりがあり、舗装も決してきれいではありません。「バンピー」で「スリッピー」な路面が多いのです。現地の路面状況を想定しながら国内で作り込んだ後、現地で本当に適合するのかという最終的な確認の意味で、再度現地テストも実施しました。
足立:私も実際に乗ってみて、高速域やワインディングでの走行安定性は今までのスクーターにはない、数段レベルの高い乗り物になったと感動しています。世界中の人に新しいカテゴリーのこのTMAXに乗って感動を体験していただきたいと思っています。日本でも、最近は250ccのスクーターが人気がありますし、TMAXが日本で発売されればいいですね。そのときは、日本の交通環境に適合させた日本的“味つけ”をすることになるのでしょうが。
天野:それにしても、イタリアなどヨーロッパではスクーターが身近な乗り物になっていて、2人乗りが当たり前になっています。日本でも早く高速道路の2人乗りができるようになるといいですね。日本で発売され、高速道路で2人乗りができれば、TMAXのすばらしさをより一層感じていただけると思います。
足立:TMAXは昨年7月にヨーロッパで発表され、今年1月からイタリアなどで発売されて、おかげさまでご好評をいただいていると聞いています。スポーツコミューターというまったく新しいジャンルをわれわれが切り開いたという自負を持っています。今後、お客様の要請をくみ取って、さらによい乗り物にしていきたいと思います。
(あだち よしひこ/あまの こういち)