5.新しいビジネスはいかに生まれるか
新しいビジネスの参考になる話をしたい。新潟県三条市にある株式会社野島製作所は、自動車シートフレーム部品の製造を手がけている。その技術を生かして今度は、プレハブのフレーム部品を手がけ始めた。自社の技術の転用先を他の業界に求め成功した事例である。
また特許庁のホームページには、特許出願技術動向調査が掲載されている。自動車に関するものでは、「操縦安定性向上技術」と「乗員・歩行者保護技術」がある。技術を分類してわかりやすく特許の動向を解説している。この調査結果の使い方として、分類されている技術以外の技術にチャレンジする方法もある。今までだれも手がけていない分野である。もしかしたら基本特許につながるかもしれない。
残念ながら日本は基本特許が少ない(図5)。これは研究者に対するアンケート調査であるが、日本では改良特許が7割以上を占めている。それが日本の現状である。ぜひ、この現状を打ち破るべく基本特許を取り、ビッグビジネスをめざしたいものだ。
3年ほど前ビジネスモデル特許が話題になった。三井住友銀行がパーフェクトというサービスを発明して基本特許を取得している(サービスの詳細はhttp://www.smbc.co.jp/hojin/eb/perfect/index.html
入金照合サービス「パーフェクト」参照)。このサービスのきっかけは顧客からの要望である。通信販売業者などは、販売した商品の代金が毎日自社の銀行口座に振り込まれる。その数は数百に及ぶため、チェックに多くの時間が費やされる。特に同姓同名からの入金、家族名義での入金などのチェックは、本人に電話で確認を取る必要があるなど、非常に手間がかかる。この入金チャック時間を大幅に低減したのが「パーフェクト」である。
発明者は顧客からの要望を1年近く考え続け、しかもその解決方法をビジネスにしてしまった。振込専用口座の利用料と振込手数料で銀行に多額の利益をもたらしたのである。
図5 技術レベルの評価
資料:(財)日本テクノマート『未利用特許情報実施調査報告』(1996年)
出所:2000年版『特許行政年次報告書』
6.知的財産にインセンティブを
プロ野球選手は、何億円もの年俸を稼いでうらやましいかぎりである。だが、サラリーマンも特許で億単位の金を稼げる時代になってきた。一般の会社には職務発明規定があり、収益に貢献した従業員には報奨金などで報いている。しかし通常職務発明規定は、会社に有利にできている。それがもとで最近訴訟が増えている。日亜化学工業の例は今注目を浴びている代表的なものだ。
日亜化学の社員であった中村修二氏は、同社に対し20億円を請求している。このような高額な賠償を請求できる根拠は特許権だ。中村氏は自分の発明を日亜化学に譲渡し2万円を受け取った(中村氏は譲渡していないと主張しているが、東京地裁の判決では譲渡が認められた。損害賠償に関しては今後判決が出る予定)。その特許権を使って日亜化学は収益を上げたのだ。中村氏の言い分は、単純に言ってしまえば収益のうち20億は自分の貢献によるものという主張だ。
特許法には、発明者が会社に発明を譲渡した場合「相当の対価」を受け取れると規定している。日亜化学が考えた「相当の対価」は出願時1万円、登録時1万円。1,000億円を超える売上を上げた製品に関する対価にしてはあまりに少ない。企業にとっては相当かもしれないが、従業員である発明者にとっては、不相当な金額であると考えられる。日亜化学にとって独占的にビジネスを進められた武器としての特許権は、発明者にとっても有力な武器となったのである。
多発する許訟に備えて、いくつかの会社は「相当の対価」を見直している。上限を撤廃したり、対価が1億円を超えるケースも出ている。サラリーマンが特許を通じて大金を手にできる時代になったのである。自分の特許に関係する製品やサービスがどれだけの利益を上げているか関心を持つことが大事である。そして「相当の対価」を受け取っていなければ、それを主張することが必要である。また、企業自身もそれに応えることが大切である。その流れが良い製品・サービスを生み出して特許を出そうというインセンティブにつながり、企業自身の競争力を高めるのである。
企業内ベンチャーの社長にもインセンティブがある。出資から得られるキャピタルゲインである。上場・公開やそれ以前の会社売却などによりキャピタルゲインが得られる。これは大きなインセンティブである。
ここまで、インセンティブとしてお金(対価)のことを話してきたが、それだけではなく、社会に貢献できた、そのビジネスを喜んで使ってくれる人がいるという満足感が最も大事なインセンティブであることをつけ加えておく。
●最後に
これからの時代は、知的財産を上手に活用した企業ほど成長する。そして知的財産をいかにビジネスにむすびつけるかが大切である。
ノーベル化学賞の田中耕一氏は、間違って配合した素材を捨てずにとりあえず実験してみるという姿勢が発明を生み出した。しかし発明だけではビジネスにならない。発明者が、ビジネスプランを作成し、ベンチャーを起こせるような仕組みを持つ企業こそこれからの時代をリードする。このような企業が再び日本の国際競争力を高めるのである。
(いわさき やすし)