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特集 これからの二輪車

二輪車の市場動向とメーカーの市場活性化に向けた取り組み

近田 茂[モータージャーナリスト]

必ずしもライダー対象だけに存在するわけではない二輪車市場

 二輪車の国内市場規模は、昨年の販売実績でおよそ76万台のレベル。一時(1982年)は330万台に迫ろうかという勢いがあっただけに、国内のバイク市場には暗雲が立ち込めたままの状況にある。99年に100万台を切ってからは、どこで耳にするのも辛い話(一部輸入車と250ccビッグスクーターを除く)ばかりが目立つ。ここ数年は底を打った感じがハッキリしてきてはいるものの、なかなか明るい兆しは見えてこないのが実情。
 ピーク時の4分の1以下にまで落ち込んでしまったという、数値に見られる落差の大きさのみが取りざたされてしまい、昨今の景気の悪さも加わって業界悲観論ばかりが目立つようになってしまっているのだ。
 しかし、ここ数十年の歴史を振り返り、一歩脇から眺めてみてほしい。これまでの市場動向を冷静な目で見つめ直してみると、ブームのきっかけとなった事柄や、逆に人気が終焉方向に向いた大きな要因の一部が、おぼろげながらも見えてくるだろう。
 もちろんそれは結果論にすぎないかもしれない。しかし何かにつけて時代は繰り返しながら進化の足跡を残してきているのが世の中の常である。オートバイシーンだけに限ったことではなく、過去に培ってきた歴史のなかに業界の市場活性化を図るべくブレークスルーするための、意外にもシンプルなヒントが隠されているものなのだ。
 過去のデータを整理してみると、販売台数に見られる激しい乱高下の中心となっているのは50ccクラスであったことに、まずは注目してほしい。
 ピーク時はおよそ280万台売れていたが、現在では5分の1以下のレベルまで落ち込んでしまっている。それ以外(51cc以上)のオートバイの落ち込みは、クラスによって実際にも2〜3分の1というレベル。冒頭の数値ほど大きな落ち込みではないのだ。
 実際、ブーム以前の75年の販売実績を見てみると、50ccを除く二輪車はおよそ33万台。ブーム最盛期の50万台は別として2000年時点で約22万台であり、落ち込みは3分の2程度にすぎないという見方も成立する。
 別に気休め材料を探しているわけではない。ここで言いたいのは、あくまで大雑把な分類ではあるが、オートバイのユーザー層のなかで50ccのマーケットとそれ以外のマーケットを区別して考える必要があるということ。
 とかく二輪メーカーはオートバイに対してプロフェッショナルな技術や感性と、ある種マニアックなマインドを備えたスタッフが、二輪車の大好きなライダー(オートバイ乗り)に向けた製品開発に邁進するきらいが強い。しかし過去のブームのひとつが証明している通り、二輪車市場は、必ずしもライダー相手だけに存在するとは限らないという点に改めて気づくべきだと思うのだ。

真のニーズを見据えて、新たなユーザー利益の提供を


ホンダのコンセプトモデル
「CAIXA(カイシャ)」

 さて、まずは50ccについて振り返ってみよう。マーケットの飛躍的な拡大に貢献したのは、76年に登場したホンダロードパル。さらに翌年ヤマハから登場したパッソルという絶好のライバル関係に、大きな人気が集中したことにある。余談ながら後に激化したHY(ホンダ対ヤマハ)戦争の発端は、ここにあると言っても過言ではないだろう。
 車体サイズも重さもそして価格も実に親しみやすい手ごろな存在としてデザインされたモペット及びスクーターの両車は、簡便な足代わりとして、多くの一般大衆のハートを引きつけた。自転車に代わる庶民の足として、まさに打ってつけの機能性に高い評価が集まったわけだ。
 このタイプのモペット自体は66年にすでにリトルホンダという製品がリリースされてはいたが、その種まきが芽吹くのに10年の歳月を費やしたことになる。時代の変遷のなかでロードパル等が大きな人気を呼んだのは、衛星都市の拡大や新興ベッドタウンに出現するスーパーマーケット等、庶民の生活環境(行動パターン)が変わりだしたこととピタリとマッチ。しかも大物女優を起用した両車の大々的な宣伝展開が奏功。便利に使えるだけでなく、オシャレな使いこなしができる格好のアイテム。そして賢い移動道具として認知されたからにほかならない。
 つまり一般ユーザーがそれを購入し使うことで、痛快な心地良さを味わえ、得した気分になれる。ユーザーの利益が大きかったことにヒット商品としての確かな要因がある。
 最高速度が40km/h程度でも、燃料タンク容量がわずか2リッターであっても、ユーザーの実用ニーズに対して、大きな不足や不満を覚えない内容であったことや、ロードパルで当時5万9,800円という価格設定の手ごろさも、販売実績に拍車をかけた。
 その後、人気はスクーター系に移行していきそれぞれに熟成はされていくが、各社が凌ぎを削るなかで、バリエーション展開があまりにも多くなりすぎ、それぞれの商品(製品)のキャラクターが希薄化してしまったこと。若年層に的を絞ったスポーツスクーターの台頭が、大人にも支持されていたスクーター本来のイメージを微妙に傷つけてしまったこと。そして何よりも、価格的な高騰がスクーター離れの流れを呼んだ。
 もちろん決定的な打撃となったのは、ヘルメット着用義務の徹底にあることは見逃せない。自転車代わりに乗り、自転車のように使いたいユーザーの多くにとって、ロードパルやパッソルはとてもお買い得で、それを愛用することでハッピーになれる存在であったが、スクーターのほとんどが10万円を超えるとなると、敷居は一気に高くなってしまう。
 ましてや、自転車代わりに、それこそ家から数kmの近所で使うだけなのにヘルメット着用の煩わしさは、安全性と引き換えたとしても不本意かつ決定的な欠点となった。
 もしかすると免許不要でより多くの人にその恩恵を享受させることができるかもしれないと期待されたペダル付きオートバイのホンダピープル(84年登場)も、結果的にはヘルメット着用義務の影響で製品としては惜しまれつつ絶版に追いやられてしまったのだ。
 要約してしまえば、50ccマーケット乱高下の顛末は、一般庶民に大きな利益をもたらす気軽な商品が誕生し、当時のニーズとうまくマッチしたことに端を発す。ただそれによって技術面やマナー面で不十分なライダーが増え、ママさんライダーの事故等といった社会問題が露呈。結果的にはヘルメット着用義務に罰則も加えられることで、気軽な利用価値の半減に帰結してしまった。
 つまりブームを開拓したロードパルやパッソルにあった優れた機能性や価値ある商品性の高さを求める一般ニーズは、実は今もなお健在であり、もしヘルメットの煩わしさがなければ足として使いたいと考えている潜在需要は確実に存在しているのだ。
 もちろんメットインスクーターの開発と普及で、ヘルメット着用を厭わない、いわゆるライダーに近いユーザーの獲得には成功したが、自転車代わりにペダルをこがずに走りたい一般ユーザーにとっては、二輪車離れを招いてしまった。
 人気下落の主な原因は製品(商品)自体に責任はないのである。
 各社は、人気回復に躍起になるあまりか、講じられた商品開発や販売戦略としては主に外観デザインの変更や贅沢なメカニズムの投入。また環境面での技術革新に明け暮れるも差別化は些細なレベル。ユーザーにとってはうれしくないコスト上昇も招いてしまった。
 しかしそれ以上の問題点は、製品開発に一般ユーザーの真のニーズを見据えた新たなユーザー利益の提供に対する努力が感じられないことにあるのではないだろうか。ユーザーがどのような使い方をするのか、どのような使い勝手を望んでいるのかの、調査と研究が足りないのではないかと思えてならないのだ。
 例えば50ccスクーターはメットインが普通となった以後、微細部分での差別化は施されているものの、基本的にありがたいと思えるドラスティックな革新は見られない。
 ヘルメット着用が必須なら、スクーターそのものよりも、むしろヘルメット自体に、より簡便な脱着性や保管機能をプラスすることで、煩わしさを減らすことができるほうが価値はずっと大きいのかもしれないのだ。実際それならスクーターに乗りたいと思う人も確実に存在する。
 スクーターに限らず、気軽な足として必然性のある車体サイズにこだわり、車庫スペースの実情にも気配りすれば、新たな需要創造も期待できるハズ。都市部のマンションに住む人なら、エレベーターに載せて自宅まで気軽に運べ、例えば玄関の隅に置けてしまう二輪車があれば、使いたいと思うニーズだって少なからずある。止め置くときは、1輪で縦に立つスタンドがあってもよいではないか。
 今、駅周辺ではどこも大きな社会問題になっている放置自転車の件でも、その解決や問題緩和に貢献できるデザインを施した製品を出せば、駐輪場の省スペース化に大きく貢献できることは間違いない。場合によっては、自治体が大量購入し、不特定多数の市民がそれを利用し合うシステムの構築だって考えられ、それが現実のものとなれば市場規模は侮れないものがある。
 ホンダのコンセプトモデルで、原付ナンバープレートの幅でデザインされ、乗らないときにはステップやハンドルが格納でき、スクーター1台分のスペースに楽に3台は止められてしまう二輪車(カイシャ)が01年の東京モーターショーで披露されていたが、再び一般ユーザーのハートを射止めるためには、まさにそんな革新的な努力が求められている。
 ハード面の性能や技術革新に邁進するよりも前に、もういちど道具として利用価値の高い真のユーザーニーズをとらえることに目を向けるべきなのだ。
 ヤマハが発売した電動のパッソルも期待値はとても大きいが、残念ながら現時点では価格も含めて多くのユーザーニーズを満たす商品に成熟するには、まだ時間を要するだろう。

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