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記者の窓
「コンパクトカーとアイスクリーム」

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江村 亮一
[日本経済新聞社]

◇先月クルマを買い替えた。全長4.8メートル、ターボエンジンのステーションワゴンを手放し、購入したのが全長4メートル弱のコンパクトカー。買い替えの主導権を握ったのは妻、主な理由は燃費。昨今の自動車市場の環境変化を反映した買い替えである。
 買い替えごとにグレード、排気量を着実にアップさせてきたので、コンパクトカーよりもっといいクルマが欲しかったのが本音。日産自動車によると、新車購入の際のおよそ6割のケースで女性が決定権を握るそうだ。わが家もその通りだった。

◇「小さいクルマが欲しい」。妻が買い替えを要求したのは新居に引っ越したおよそ1ヵ月後の3月中旬。駐車スペースが狭くなったせいか、子どもの送り迎えや買い物で妻の運転回数が増えるに従い、車長のあるワゴンの後部には擦り傷やへこみがどんどん増えていた。最初は素直に謝っていたが、次第に長いクルマのせいにするようになっていた。
 ここにガソリン高が直撃する。ターボ車は高速道路の長距離走行には最適だが、買い物や子どもの送り迎えには向いていない。必要以上にエンジンの回転数が上がってしまいガソリンを浪費してしまう。膨れ上がるガソリン代を前に「普段の節約が虚しくなる」との妻のつぶやきは家計全体の悪化を予感させた。

◇運転技術についてやんわりと指摘したこともあったが、手ひどい逆襲を受けた。私の事故歴、修理歴を細大漏らさず解説。自分は寛容の精神で追及しなかったのに対し、あなたは狭量であると断罪されるに至り、排気量アップの選択肢はなくなった。
 というわけでコンパクトカーがやってきた。性能にはさほど期待していなかったのだが、いざ乗ってみると意外におもしろい。低速トルクは思った以上にあるし、回転半径が小さいので狭い道の曲がり角もすいすい。燃費を計算してみると、これまでの2倍はいい。もちろん妻の機嫌もいい。

◇思わぬ恩恵もあった。区民プールの駐車場。環境性能の良いコンパクトカーは駐車料金が1時間無料になる。自身の体質改善と子どもの健康のため毎週末にプール通いをする身にとってはありがたい。浮いたお金で自分と子どものちょうど2人分のアイスクリームが買えるのだ。プールで泳いだ後の気だるい疲労感を癒やすのにはアイスがちょうど良い。

◇自動車会社にとってはコンパクトカーに乗ってアイス代が浮いたと喜ぶような消費者ばかり増えてはきっと困るだろう。景気回復が続いているが新車販売は振るわない。同じ売れるなら価格の高い大きなクルマのほうが良いに決まっている。
 しかし、見方を変えるとこれだけ満足度の高いコンパクトカーを低価格で供給しているのはたいしたもの。世界的に環境規制が強化されるなかで、小型車の需要はさらに増えそう。日本ではあまり儲からないかもしれないが、顧客に喜ばれるコンパクトカーを作ることができる力は世界市場で戦ううえで強力な武器になるだろう。

(えむら りょういち)

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