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3.自動車輸出の急拡大とその問題点

 90年代以降長い間、中国はずっと輸入超過の状態が続き、輸出台数はせいぜい数万台のレベルに止まっていた。04年に輸出は10万台の大台を超え、05年から輸出台数は初めて輸入台数を超え、06年には輸出が30万台の大台を超えた(図3)。輸出の伸び率が輸入を上回り、しかも加速度的に推移しているため、国内外から注目されている。
 中国汽車工業協会(CAAM)輸出入統計を調べると、06年の自動車輸出は34.3万台、05年(17.4万台)に比べて97%増加、うち商用車は21.7万台、同71%増、乗用車は9.3万台、同200%増である。06年の輸出の急伸は、主として乗用車の増加による。次頁の表2に示したように乗用車輸出台数の内訳をみると、大幅に増加したのは1.5〜2.5リッターの中型セダンタイプ車で4倍以上の伸びであり、4輪駆動車(オフロード車)の輸出増も顕著で、従来の商用車中心の輸出構造に変化が見られ始めている。
 最大の輸出先はロシアとシリアである。上位20ヵ国を見ると、中東、アフリカ向けの輸出が依然として多く、乗用車台当たり輸出単価は平均1万ドル以下と非常に低い。
 近年国内市場での競争が激化し、各社は能力拡張を急いだ結果、需要を遥かに上回る巨大な供給能力が形成されている。巨大化した固定費を賄うために、値下げ競争は熾烈化し、メーカーの利益は次第に薄れてきた。それにもかかわらず、増産分を必要とする国内シェアが必ずしも取れない。過剰設備が輸出圧力となって、海外市場で活路を見つけようとするメーカーが増えている。とりわけ民族系メーカーの生産にかかる相対コストの低さは、海外新興市場において超低価格車ユーザー層を新たに掘り起こす可能性がある。加えて、政府が自動車製品に対して高い輸出税還付率3)を適用していることも、輸出拡大へのインセンティブとして強く働いている。
 輸出税還付制度のもとで、輸出税還付が利益と見なされている傾向がある。例えば、国内で販売されると利益がゼロでも、同じ価格で輸出すれば、輸出メーカーにとって輸出税還付分だけ、実質的に利益を得ることになる。
 しかし、実際問題として、中国の自動車輸出業者は06年に一気に1,200社以上に膨らみ、輸出税還付を目当てにして値下げの余地を得て、破格の安価で売り込みに走っている業者が増えている。それだけでなく、輸入側も、還付率を織り込み済みで値引き交渉に臨んでおり、合い見積りなどを通じて輸出価格を異常に低く抑えようとしている。海外市場を巡って競争の激しさが日々に増大しているなか、低価格、低品質の製品が氾濫している。輸出業者の零細化、輸出台数の小口化、輸出地域の分散化が進み、アフターサービス体制を構築する余裕もなく、売り放しの状態が続いている。これによって、一部の海外市場では中国車が糾弾され、規制の対象になったり、不当に扱われたりして、輸出実績の良いメーカーにもマイナスの影響をもたらしている。
 こうした状況に対し、中国国内では「鶏を殺して卵を取り出す行為だ」との批判が出ており、二輪車の輸出の「二の舞」にならないように、最近、中国政府はブレーキをかけ始めてきている。07年3月1日より、完成車製品に対して、輸出許可証による商務部の管理が導入され、700社以上は輸出資格を剥奪されることになり、今後悪質な自動車製品の低価格での輸出が減ると期待されているようである。

図3●中国の完成車輸出入の推移
グラフ
出典)中国汽車工業協会統計より筆者作成

表2●車種別完成車輸出台数の変化 表
出典)中国汽車工業協会統計より筆者作成

4.メーカー競争ポジションの変化

 国内市場においては、需要がハイペースで拡大しても、成長市場を狙って国内外のメーカーによる新車投入が相次ぎ、06年まで続く輸入関税の引き下げにより輸入車も増加したため、供給サイドの競争が激化している。足元では、短期的に需要の地域的変動が激しくなったことも影響して、メーカー各社の競争ポジションに変化が出始めている。
 オペレーションリサーチの分野で企業経営分析手法として広く使われているDEA分析4)を用いて、主要メーカーの生産効率性の変化を分析してみた。データは04年と06年の2年間の投入(総資産、従業員数)と産出(売上高、卸売台数)指標を使う。分析対象は、主として乗用車メーカーに限定し、外資系メーカー16社と主要民族系メーカー10社、分析期間は04年と06年の2時点比較である。
 通常、生産企業は複数種の投入と複数種の産出によってその生産活動が特徴づけられ、産出の最大化を目標に活動する。そのため、産出/投入の比は、各生産企業の生産効率性(ここではDEA効率値)を測定する相対尺度となる。図4では、縦軸は生産効率性(DEA効率値)を、横軸は製品の付加価値を表す台当たり売上高を表している。バブルの大きさは第3軸として卸売り台数を示している。図4で読み取れるポイントは、以下の3つである。

 (1)外資系メーカーのうち、日系メーカーの生産効率性の向上が著しい。04年には、欧米メーカーの卸売台数は、明らかに日系メーカーより多く、しかも一汽VW、上海VW、上海GMの3社に集中している。06年には、日系メーカーの台数は増え、とりわけ一汽トヨタと東風日産の躍進が目立つ。
 (2)外資系メーカーと民族系メーカーとの間の競争ポジションの変化が顕著である。外資系メーカーと民族系メーカーは、従来それぞれ異なったマーケットを有しており、競合関係よりも、補完関係にあった。
 高い生産効率性、製品の高付加価値化及び大量生産は、外資系メーカー経営の特徴である。民族系メーカーは、低い生産効率性と製品の低付加価値といった対照的なポジションにあり、低価格・小型車市場に特化し、台数も少なく、商品投入に関しては外資系との棲み分けが明白であった。
 しかし、06年には競争ポジションが変わり始めた。まず民族系メーカーの卸売り台数が大きく伸びている。次に、外資系と民族系の生産効率性の格差が縮小している。民族系メーカーの生産効率性向上の背景要因としては、技術的な進歩以外に、2級市場での需要拡大が果たした役割は大きい。その結果として、従来の完全補完関係から徐々に競合関係に近づいている。
 (3)民族系メーカーの製品構成は、現在依然として低付加価値製品に偏っているが、今後製品開発力を身につけ、より付加価値の高い製品を投入するような事態が起こるならば、外資系と民族系との従来の補完関係が崩れ、次第に競合関係に発展していく可能性は否定できない。当面においては、ポジション的に近い韓国系メーカーにとって脅威になる可能性は十分にあり、日米欧系メーカーにとっても決して無関係な存在ではなくなりつつあると思われる。

 時系列で民族系メーカーの生産効率性の向上については、マルムクィスト指数5)と呼ばれる指標で測ることができる。図5に示しているのは、乗用車各メーカーの生産効率性の時系列変化である。04年を基準年として06年の効率値の変化を見ると、欧米系、韓国系、日系メーカーの多くは、生産効率性(DEA効率値)が1の周辺に集中し、比較的安定している。これに対して、奇瑞、吉利、金杯などの民族系メーカーの生産効率性の向上は、1を大きく上回っていることに留意されたい。
 ただし、民族系メーカーはすべて脅威になるとは限らない。筆者の別の分析によると、民族系メーカーの多くは(生産関数が)規模に関して収穫逓増のステージ6)にあり、規模拡大による収益性向上の余地はある。しかし、規模拡大に伴う生産性の向上は、販促のための値下げによって帳消しにされ、小型、低価格路線が行き詰まりつつある。そのため、多くのメーカーはぎりぎりで利益が出る規模で操業しており、赤字経営のメーカーも少なくないのが現状である。今後産業再編が進み、生産効率性の向上と製品の高付加価値化が達成できず、技術力と資本力を持たない弱小民族系メーカーは淘汰されるであろう。

 

図4●主要(乗用車)メーカーの競争ポジションの変化
主要(乗用車)メーカーの競争ポジションの変化
(注)●は日系メーカー、*は民族系メーカー、▲は韓国メーカーを表し、他は欧米メーカーである。 出典)筆者作成

図5●主要(乗用車)メーカーの生産効率性(2006年/2004年)の変化
主要(乗用車)メーカーの生産効率性(2006年/2004年)の変化
(注)*は民族系メーカーを示す。 出典)筆者作

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