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特集 欧米の若者たちにとっての“クルマ”
米国の若者たちとクルマ事情
桃田 健史[モータージャーナリスト]
“ヒアリング調査”の結果として
この数ヵ月間、筆者は米国での「若者とクルマ」についてさまざまな調査をした。そのなかで、日本人が最も興味があるのは、「米国でも若者のクルマ離れは起こっているのか?」についてだと思う。その点について、雑誌、新聞、ウエブなどでの情報収集を試みた。しかし、該当するデータはほとんど見つからなかった。この命題があまりにも抽象的であり、さらに明確な社会現象として存在しない(または、していないように見える)からだ。
そこで調査方法を、聞き取り調査へと転換した。聞き取りの対象者は全米各地の約100人。筆者の個人的な知り合いの10代〜70代男女、雑誌などの取材で会った20代〜60代のカーディーラーマン、インディカーやNASCARレース関係者の20代〜50代、20代〜50代の日米欧韓自動車メーカー広報担当者や商品企画・マーケティング担当者、10代〜60代の飲食店や量販店の店員など、シチュエーションはさまざまだ。筆者の仕事柄、自動車業界関係者が多いのだが、それでも「クルマ離れ」という社会現象の意味を理解しない人がほとんどだった。よく出た回答としては「クルマは普段の足。好き嫌いの問題ではない」「稼ぎ次第。若者本人、または親に金があればクルマは買う。金がなければ買わない」という抽象論。なかには「日本で問題になっていると聞いたことがある。だが、米国では信じられない現象だ」というものもあった。米国の一般社会のなかで、若者のクルマ離れが発生、または進行しているという意識をだれも持っていなかった。
フレキシブルな「若者の定義」
さて、日米で「若者の定義」に違いはあるのか? 日本の若者とは、一般論では10代半ば〜20代後半だ。対象をクルマとすれば当然、免許取得年齢の18歳以上となる。対する米国では、一般論としては日本と同じだ。ところが、驚くことに免許取得年齢では、州によって取得最低年齢と、それに伴う各種の制約が大きく違う。ワシントンDCと全米50州全体でみると、免許取得年齢が18歳が15州、同17歳(または17歳6ヵ月)が18州ある。最も低い年齢規定は、アイダホ州、モンタナ州、ノースダゴタ州、サウスダゴタ州の16歳。こうした農耕地帯の州では大規模農家が多く、10代半ばでもピックアップトラック等が操れると貴重な労働力になる。また、全米各州とも免許取得に向けた学習開始可能年齢と、運転可能時間などを規定した条件付免許取得可能年齢がある。サウスダコタ州では、14歳から学習開始可能で、14歳6ヵ月で条件付で運転できる。その条件とは16歳になるまで、午後10時〜午前6時まで運転禁止。アラバマ州の場合、17歳になるまでは3人以上乗車が禁止となる。このように、運転免許で考えると、「米国の若者」は「日本の若者」より若い。
一方、自動車保険で見る「米国の若者」は「日本の若者」よりも年齢が高い、といえる。米国の自動車保険の保険料は、加入者の年齢、住居地(州、郡、市)、車両の種類、1日の平均使用距離、過去の事故暦などによって大きく変動する。なかでも、最も大きな変動要因が年齢で、25歳が節目となっている。25歳より上か下で、保険料は倍近く違う場合がある。住居地では当然、地方都市より都会が保険料は高い。車両では、スポーツカーが保険料が高く、小型セダンやピックアップトラックなどは安い。保険会社によって差はあるが、例えばロサンゼルスに住む20歳の大学生が日産370Z(フェアレディZ)の新車で保険に入れば、月に600ドル(約6万円)の保険料が想定できる。自活していない若者にとって、当然支払い不可能な金額だ。そのため多くの保険会社では、「加入者が25歳以下の場合、親の自動車保険の一部に組み込むことが、保険料を安くする最善策だ」と説明している。米国の自動車に関して、「25歳が成人」なのだ。
一方、マーケティング的に見れば……
その他、米国で若者を示すマーケティング用語、ジェネレーションYがある。GY(発音ははジーワイ)は1975年〜89年生まれ、現在の20歳〜34歳を示す。米国内で、自動車を含めた各種製品の商品企画において、このGYという括りを「米国の若者層」としている。世代の順序では、GYの前がジェネレーションX(GX)だ。つまり、マーケティング分野では、GYはGXの影響を強く受けている「GXの弟分」というイメージを持っている。このGX、GYの趣味趣向性を具現化しようとしたイベントがある。それが、「XGames(エックスゲームズ)」だ。これは、米国テレビネットワークABC系のスポーツ専門テレビ局ESPNが主催、運営、独占放送する新種スポーツの祭典である。日本でも現在、NHK衛星チャンネルで放映されている。「XGames」の「X」にはGXという意味も含んでいる。1995年に第一回が開催されており、その当時のGXは21歳〜35歳であり、現在のGYと同年齢層になる。つまり米国では、20代〜30代半ば若者、という括りになる。さて、「XGames」の競技は夏と冬に分かれている。夏にはスケードボードでのビッグジャンプ、BMXでのパイピングなど、冬にはスノーボード、スキーなどが中心だ。もともと「XGames」は、オリンピック競技の枠に捉われない新しいスポーツのカタチを狙った。だが、オリンピックでもスノーボードなどが主力競技として台頭したこともあり、徐々に原動機付の道具を使った競技が増えていった。モトX(舗装路とダートを同コースに持つモトクロス)、スノーモービル、さらには「レーシング」と称してラリー車の競技まで始まった。これは、北米内のラリーイベントに参加している既存の競技車両を使い、舗装路とダート路を連携して行うタイムトライアルだ。WRC(世界ラリー選手権)のSS(スペシャルステージ)の応用編だといえる。XGamesのレーシングはSOA(スバル・オブ・アメリカ)がメインスポンサーであることもあり、参加車はインプレッサが多い。ただ、この競技を若者や同番組の視聴者が支持しているとは思えない。唯一人気があるのは、SOAのファクトリーチームで、インプレッサSTIで参戦している、トラビス・パストラーナ選手だ。彼はもともと、モトクロスの選手で、2006年のXGamesで、フィギュア競技での空中2回転を成功させたことで全米の注目を浴びた。その後ラリーに転向した。XGamesの番組内でも、ラリー競技について詳しく説明することもなく、彼の動向だけがクローズアップされるだけ。他の選手の存在感があまりにも薄く、「トラビス・ワンマンショー」という番組構成となっている。全米ネットの若者向け人気番組で、自動車競技が扱われることはほとんどなく、XGameでの影響力が期待されたが、スバルやSTIブランドへの若者信仰が(多少のプラス効果はあったにせよ)大きく高まったという事実はない。元来、このXGamesでのレーシングという競技は、ラリーアメリカというラリー競技シリーズの一環として組み込まれた。米国でのラリー人気は極めて低く、全米規模の大会主催団体も何度も変わった。そして、ラリーアメリカという団体が、ESPNに対して、スバル協賛を軸とした企画を持ち込んだのだ。結果的には、米国の若者がクルマ/スポーツモデル/モータースポーツへと興味を抱くという、当初の企画目的は達成されていない。
米国若者のクルマ事情諸々
[1]かかるコスト、駐車場、一時駐車場、高速料金、税金、保険料など
日本と同様に、大都市の中心部では駐車料金は高い。最も高額なのは、NYマンハッタン、次いでサンフランシスコ。ともに周囲と橋で繋がれた島のため、地代が高い。当然こうした地域で若者がクルマを所有するのはむずかしく、地下鉄やバスなど公共機関を利用する。
郊外になれば、一般住宅でガレージに2台、ガレージ前のスロープに2、3台は駐車できる。郊外型のアパートでは、一世帯当たり最低2台分の駐車スペースは家賃に含まれる。高速道路については、米国ではフリーウェイというように、基本的には無料な場合が多い。ただこの10年ほどで、大都市圏(NY、シカゴ、アトランタ、ダラス、マイアミなど)では日本のETCのような自動課金システムを採用した有料道路が増えた。だが料金は、1区画25セント〜1ドル(20円〜90円)などで、日本と比べてかなり安価だ。またETC機器は、ほとんどの場合、地元交通局から無償貸与され、支払いは事前登録したクレジットカードで行う。税金は地方自治体で違いがあるが、中型車であれば年間100ドル(約9,000円)には達しない。
また、車検に相当する、州が課す年間車両検査、ステートインスペクションの費用が1回70ドルほど(約6,000円)かかる。保険料は既述の通り、25歳以下では高額だ。また通常の保険料は、日本と同様にネットや電話のみで販売される新規自動車保険によって、近年大幅に下がっている。
[2]単なる移動のための道具になっているのか
前述の聞き取り調査をした際、何人かがこう表現した。「クルマに乗ることは、衣食住の一部だ」。昔から、米国では「クルマは普段の足」と言われてきたが、その状況は現在も変わりがない。それは、若者を含めた全年齢層で同じだと思う。詳しくは後述するが、若者はスポーツカーに興味がない。ここ数年、米系メーカーからは、ダッジ・チャレンジャー、フォード・マスタング(大型ボディ化)、GMシボレー・カマロなど、いわゆるマッスルカーが復活している。だがその顧客層は、60年代のマッスルカー全盛時代を自らが若きころに謳歌した現在60代、マッスルカー全盛時代にマッスルカーに憧れた現在40代〜50代である。20代〜30代のジェネレーションYでマッスルカー好きは、いわゆる「オタク」の部類に入る。日本車では、日産370Z(日本のフェアレディZ)の顧客層も、50〜60代が主流。マツダロードスターも事情は同じで、同車の開発担当者たちは以前に筆者にこう漏らした。「日本でもスポーツカーファンの高齢化が進んでいますが、アメリカはさらにその上。せめて新型ロードスターでは40代の方に買って欲しいのですが……。やはりむずかしいですね」。
ある意味では、米国での「若者のクルマ離れ」は60年代の直後、つまりオイルショックとマスキー法(排出ガス規制)が到来した70年代序盤〜中盤に起こっていたのかもしれない。その流れが現在にまで到達しているのかもしれない。ただ90年代後半から、新種の若者クルマ文化が芽生えたが、その後あえなく消滅した。それについては後で詳しく書く。
[3]若者が初めて買うクルマは新車か中古車か
富裕層の子どもは新車を買ってもらう。高校生の人気ナンバーワンはBMW3シリーズ。親としても「BMWなら(走行安全性とご近所への顔向けとして)安心だ」という。普通の若者はやはり、中古車を買う。その中古車がどれもかなり高い。米国では走行距離10万マイル(16万キロ)は当たり前であり、さらにクルマは日常の足としての必需品。8年落ちで8万マイル(12万8,000キロ)走行のカローラが、5,000ドル(45万円)などという相場で取引されている。
[4]都市部と郊外における若者にとってのクルマ環境の違い
前述の通り、郊外の若者はクルマは日常の足。さらに、田舎になれば、クルマは働く道具である。こうした状況は日本でも共通であり、都市での若者の自動車保有率は低下傾向にある。
[5]ライフスタイルとクルマの関係、クルマ文化とは
ここで、2つの話題を出してみたい。第一点は、90年代後半に到来した、通称「インポートカー」ブーム。これは、米国車に対する輸入車という意味。日本では、スポコン/スポーツコンパクト系、とも呼ばれた。第二点は、最近到来しているライフスタイル系のクルマ文化についてだ。これら二点について、以下で詳しく紹介する。

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