|
特集 動き出した中国自動車市場
中国自動車産業の現状とこれから
上山 邦雄[城西大学経済学部教授]
はじめに ―予想を超える急拡大による世界最大の自動車生産・販売国の確立―
2009年の今年、中国自動車産業の生産及び販売規模は1,300万台前後を達成することが予想され、初めて世界最大の自動車生産・販売国の地位を確立することが確実な形勢である。その点を表1で確認してみよう。この表は、日本、アメリカ、中国の昨年から今年にかけての国内生産及び販売を比較したものである。08年には、世界最大の自動車生産国は日本であり、世界最大の自動車市場はアメリカであった。しかし、今年は中国が世界最大の自動車生産・販売国としての地位を獲得することが数字的に裏づけられよう。このように、近年、中国自動車産業の巨大化ぶりが顕著である。表2に示したように、中国の自動車生産台数は、2000年には207万台であったが、02年前後から急成長を続け、今年には一挙に300万台以上の増加を達成すると思われる。
表1●日米中自動車国内生産及び販売(万台)
| |
2008年 |
2009年 |
| 生産 |
販売 |
1−10月生産 |
1−10月販売 |
| 日本 |
1157.56 |
508.22 |
628.68 |
380.01 |
| アメリカ |
867.31 |
1349.32 |
457.46 |
879.13 |
| 中国 |
934.51 |
938.05 |
1,087.32 |
1,089.14 |
|
(出典)日本自動車工業会『自動車調査月報』2009年11月号及び中国汽車工業協会発表による。
表2●中国自動車生産台数推移(台)
2000
|
2,068,186(1,607,445)
|
2001
|
2,341,528(1,703,525)
|
2002
|
3,253,655(1,092,762)
|
2003
|
4,443,491(2,037,865)
|
2004
|
5,070,452(2,312,561)
|
2005
|
5,707,688(2,767,722)
|
2006
|
7,279,726(3,869,494)
|
2007
|
8,882,456(4,797,688)
|
2008
|
9,345,101(5,037,334)
|
| 2009(1−10月) |
10,873,200(5,837,500) |
|
(注)括弧内は基本型乗用車。『2009年版中国汽車工業年鑑』456頁。2009年は汽車工業協会の発表による。
この間、世界的には昨年秋からのアメリカ発金融危機の影響が実体経済に波及し、先進諸国はおしなべて景気の低迷に苦しむなかで、中国自動車産業が大きく拡大していることが鮮明である。もっとも、中国自動車産業は昨年08年夏を境に変調を来し、さらに、昨年秋以降の金融危機が中国自動車産業にも大きな影響を与えたことは事実である。その結果、中国自動車市場は年末にかけて低迷を続け、08年の販売台数は、前年の8,791,523台をわずか6.9%上回る9,380,502台にとどまった1)。
しかし、今年に入ってから、中国自動車産業は目覚ましい躍進を遂げるに至った。その背景として、金融危機に対する中国政府の積極的な対策が挙げられる。08年11月9日には「内需促進・経済成長のための10大措置」が決定され、そのうちの鉄道・道路・空港・電力等の重大インフラ整備の加速、農村のインフラ整備を加速、生態環境整備の強化など7分野について、2010年末までに4兆元投資を実施すると発表され、その後に地方政府による20億元を超える投資計画が打ち出されることになった2)。こうした政府による内需拡大策は当初の発表内容とは修正されたものの着実に実行されており、中国経済のマクロ的な改善に貢献していった。
さらに、自動車産業については、「汽車下郷」「以旧換新」という言葉に象徴される中国政府の自動車産業調整振興政策が、基本的には、奏功することになった。その結果、依然として、特に基本型乗用車部門では日米欧韓の外資系が約7割と優位を占めてはいるものの、中国民族系メーカーがシェアを拡大し、次世代自動車開発にも積極的な姿勢を示している。本稿は、こうした中国自動車産業の現状を紹介し、将来を展望することを目的とする。
1.自動車産業調整振興政策の奏功と民族系メーカーの躍進
金融危機に対する中国の自動車産業政策は、09年1月以降に打ち出された「自動車産業調整振興計画」に代表される。1月14日には、自動車と製鉄産業振興計画が国務院常務会を通過することとなったが、その後、紡績産業、設備製造業、船舶工業、電子情報産業、軽工業、石油化学産業、非鉄金属、物流業が追加され、十大産業調整振興計画となった。この十大産業調整振興計画は2009年から2011年にかけて実施されることになっている。この自動車産業調整振興計画の狙いは、「積極的な消費政策を実施し、自動車需要を安定・拡大する」「構造調整を柱に企業の連携、再編を進める」「新エネルギー自動車を突破口に自主革新を進め、市場競争における優勢を形成する」ことを狙いとしている。具体的には、[1]1月20日から12月31日まで、排気量1.6リットル以下の乗用車に対する自動車購入税を5%に。また、3月1日から12月31日まで、オート三輪や低速トラックを軽トラックに買い替えたり、排気量1.3リットル以下の乗用車を購入した農家に財政的補助を行う。さらに、旧型車の買い替えを促すための補助資金を増加する。[2]自動車産業の再編を推進する措置をとる。[3]企業の自主革新と技術改造を支援する措置として、今後3年で中央財政は、企業による技術革新・技術改造、新エネルギー車とその部品に、100億元を準備する。[4]新エネルギー自動車戦略実施のための措置として、中央財政は補助資金を準備する。[5]自動車メーカーの自主ブランド発展の支援、輸出拠点の建設加速、近代的な自動車サービスの発展、自動車ローンの仕組みを整備する、などとなっている3)。
この政策の狙いは、農村への自動車普及を拡大する「汽車下郷」、従来農用車と言われていた旧型車を新型車と置き換える「以旧換新」、小型車への優遇、自動車産業の再編推進、自主創新、自主ブランド、新エネルギー車など、多岐にわたっている。そして、3月21日には、この自動車産業調整振興計画の細則が公布され、実行されていった。紙幅の関係で詳細に紹介することはできないが、細則では、指導方針、基本原則、8つの「計画目標」、8つの「主要任務」、11の「政策措置」が示されている。
「計画目標」とは
このうち「計画目標」では、[1]自動車生産と販売台数の安定的な成長を保つ(09年の自動車生産・販売が1,000万台を超えるように努め、3年間の平均伸び率を10%と)、[2]自動車消費環境の著しい改善(自動車消費政策法規に関連する完全な枠組み体系、科学的合理的自動車税制、現代的自動車サービス体制とITS構築、電気自動車のためのインフラ体制の整備により自動車市場の発展を促進する)、[3]市場需要構造を最適化する(排気量1.5リットル以下の乗用車のシェアを40%以上に引き上げ、その内、排気量1.0リットル以下の小排気量車のシェアを15%に到達させ、大型トラックの比率を25%以上に)、[4]合併・再編の推進(生産販売規模200万台を超える自動車企業集団を2〜3社、100万台を超える自動車企業集団を4〜5社育成する。生産販売規模で現在は14社で9割以上のシェアを占めているが、これを10社以内とする)、[5]自主ブランド車のシェア拡大(自主ブランド乗用車の国内シェアを40%以上とし、そのうち基本型乗用車のシェアは30%超とする。また、自主ブランド車の輸出比率は生産販売台数の10%弱とする)、[6]電気自動車の生産販売規模の形成(現在の生産能力を改造し、電気自動車、プラグインハイブリッド、普通型ハイブリッド等の新エネルギー車の能力を50万台とし、新エネルギー車の販売台数を乗用車販売全体の5%前後に引き上げ、主要な乗用車メーカーは認証を取得した新エネルギー自動車製品を備えなければならない)、[7]完成車の研究開発水準の大幅向上(自主研究開発の完成車製品は、特に小排気量基本型乗用車の省エネ、環境対応、安全基準については国際先進的水準に引き上げる、主要な基本型乗用車製品は先進国法規要件を満足させ、大型トラック、大型バスの安全性と快適性も国際水準に接近させ、新エネルギー車の全体技術も国際先進水準に到達させる)[8]コアとなる部品技術の自主化を実現する(エンジン、トランスミッション、ステアリングシステム、ブレーキシステム、伝導システム等コアとなる部品技術の自主化を実現し、新エネルギー車用部品技術を国際先進水準に到達させる)。
着実に進展する「自動車産業調整振興計画」
「主要任務」は、[1]自動車消費市場育成、[2]自動車産業再編推進、[3]企業の自主創新(編集室注:日本語で言えば「自主革新」に近い)支持、[4]技術改造専門プロジェクト実施、[5]新エネルギー車戦略実施、[6]自主ブランド戦略実施、[7]自動車製品輸出戦略の実施、[8]現代的自動車サービス業の発展のそれぞれについて、説明されている。さらに、「政策措置」では、[1]乗用車購入税の減税(5%)、[2]「汽車下郷」の展開(50億元の資金で補助金)、[3]旧型自動車の廃棄更新加速(補助金総額を2008年の6億元から10億元に増加)、[4]自動車購入規制の不合理な規定見直しと取り消し(ナンバープレート登録規制、車型規制、各地域の市場保護措置など)、[5]自動車ローンの促進と規範化、[6]中古車市場発展の規範化と促進、[7]都市道路交通体系の構築を加速、[8]自動車企業再編政策の完成、[9]技術進歩と技術改造への投資力改造、[10]省エネ車及び新エネルギー車の使用推進、[11]「自動車産業発展政策」の着実な遂行と完全化、となっている。
こうした自動車産業調整振興計画は、その後も一部修正されながら、着実に進展していった。5月19日には、国務院常務会議において、自動車の買い替え補助金総額をそれまでの10億元から50億元に引き上げることが決定され、買い替えの補助金を受けられる対象は商用車にまで拡大された。6月10日には、「自動車・自動二輪農村普及実施細則」が公表され、その附属文章「自動車・バイク下郷オペレーション細則」において、「第19条 農民が本細則に定める貨物軽自動車、小型貨物自動車の購入を目的として三輪自動車や低速貨物車を廃棄する場合は、以下の基準に従って廃棄補助金を支給する。1.三輪自動車の廃棄には、1台につき2,000元を補助する。2.低速貨物車の廃棄には、1台につき3,000元を補助する」などと、廃棄に対する補助金支給の基準が細かく決められている。さらに、7月13日には、2009年6月1日〜2010年5月31日の期間に、車種に応じて3,000元〜6,000元の範囲で補助金を支給する「汽車以旧換新実施弁法細則」の全文が公表された。
政府主導の再編
こうした「汽車下郷」、「以旧換新」政策によって、モータリゼーションがこれまでの沿海都市部から、農村部、内陸部へと拡大していくことになった。その際には、自動車販売の中心は従来の高級車主体から、小型車、低価格車へと移行していった。また、すでに、昨年9月1日に実施された自動車消費税の変更に伴い、大型乗用車の消費税が引き上げられる一方、排気量1リットル以下の乗用車の消費税は1%となるなど、小型車への誘導は進んでいた。その結果、表3の乗用車排気量別工場出荷台数の変化に明らかなように、09年1月〜10月には、前年同期比で乗用車全体でも45.2%と大きく増加したが、排気量1.6リットル以下の乗用車はより一層の拡大となっていることが明らかである。
表3●乗用車排気量別工場出荷台数の変化
| |
2009年1-10月(台)
|
対前年同期比
|
1.0リットル<
1.6リットル<
2.0リットル<
2.5リットル<
3.0リットル<
4.5リットル<
|
排気量≦1.0リットル
排気量≦1.6リットル
排気量≦2.0リットル
排気量≦2.5リットル
排気量≦3.0リットル
排気量≦4.0リットル
排気量
|
|
1,047,620台
4,671,936台
1,573,123台
777,849台
101,602台
16,409台
1,754台
|
72.9%
61.5%
13.4%
20.4%
25.3%
▲31.3%
▲66.0%
|
| 乗用車合計 |
8,190,293台 |
45.2% |
|
(出典)『FOURIN中国自動車調査月報』2009年12月号、45頁。
さらに、こうした措置は、政府が自主ブランド車や自主革新の新エネルギー車の購買を促進させる措置と相俟って、民族系メーカーに対する支援策ともなっている。表4のブランド系列別工場出荷台数の変化をみると、前年同期比で、2009年1月〜10月に最も工場出荷台数を拡大したのは韓国系であるが、中国民族系メーカーは日米欧メーカーを上回る伸びを示しており、中国政府の産業政策が民族系メーカーの躍進を後押ししていると言えよう。
表4●ブランド系列別工場出荷台数の変化
| |
2009年1-10月(台)
|
対前年同期比
|
中国系
日系
欧州系
米国系
韓国系
|
3,569,510
1,761,648
1,397,794
780,955
680,386
|
60.2%
20.7%
35.7%
40.9%
84.0%
|
| 合計 |
8,190,293 |
45.2% |
|
(出典)『FOURIN 中国自動車調査月報』2009年12月号、47頁。
こうした民族系メーカーの育成を狙って、前述のように自動車産業調整振興計画では「4大4小」政策が謳われている。かつての中国の自動車産業政策には「3大3小2微」政策(編集室注:大型3社、小型3社、軽2社に統合しようとする政策)と言われるものがあったが、今回はその政策を彷彿とさせる「4大4小」再編政策が提起された。もっとも、前者はその8つの工場に乗用車生産を集約させる政策であったが、今回の政策はこの8つの大型企業集団に生産を集約する方向で再編を促すことを目的としたもので、その内容は異なっている。具体的には、全国的再編の中心的企業集団となる4大には一汽、東風、上汽、長安が、地域的再編の核となる4小には北汽、広汽、奇瑞、重汽が選ばれた。
政府の意思で進められたこの「4大4小」再編政策の波は、今後、これまで中国の自動車産業に特徴的であった小規模メーカーの乱立という状態を一定程度修正し、集約化への流れを作り出すことになるかもしれない。例えば、報道によると、11月10日に中国兵器装備集団と中航工業集団は株譲渡に関する調印を行い、中航工業集団が保有する昌河汽車、哈飛汽車、東安動力、昌河スズキ、東安三菱の株式を長安汽車集団に譲渡することになったという4)。これにより、長安汽車の生産能力は、フォード、マツダ、スズキなどとの提携分を合わせて年産220万台にまで拡大し、今年の生産・販売実績で東風を抜き中国3位の自動車メーカーに浮上するばかりか、小型の自主開発車を軸に、2020年には年間500万台の販売をめざすという計画が明らかにされた。こうした長安汽車の積極的な姿勢は、他の民族系メーカーにも波及し、中国における企業間競争を激化させていくことになろう。

前へ 1/10 次へ 
|