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[ASEAN3ヵ国の自動車産業と市場の変貌]

ASEAN3ヵ国の自動車産業の変化

拓殖大学国際学部教授 小野沢 純

1.本格化するASEANの自動車生産・輸出

2011年3月の東日本大震災の影響で、タイとインドネシア、マレーシアの自動車産業はサプライチェーンの面から特に電子系部品の不足が生じたものの、ほぼ6〜7月に通常の生産体制に戻った。2011年上半期の自動車販売の実績を見ると、前年同期比でマレーシアの1.3%減を除き、タイが21.3%増、インドネシアも12.8%増と大幅な伸びを維持しているので、3ヵ国とも2011年通年では前年を上回る見通しである(表1)。

表1●ASEAN3ヵ国の自動車生産・販売台数(2008〜2011年)

(単位:千台、伸び率:%)
  2008年 2009年 2010年 2011年
上期 通年(見通し)
タイ 生産 自動車計 1,394 (+8.3) 999 (-28.6) 1,645 (+64.7) 811 (+5.4) 1,800 (+9.4)
乗用車 401 (+27.3) 313 (-21.9) 554 (+77.0) 300 (+22.7) 594 (+7.2)
販売 自動車計 615 (-2.5) 549 (-10.7) 800 (+45.7) 432 (+21.3) 900 (+12.5)
乗用車 227 (+33.5) 230 (-1.3) 346 (+50.4) 193 (+26.3) 410 (+18.5)
インドネシア 生産 自動車計 601 (+46.0) 465 (-22.6) 703 (+51.2) 384 (+13.9) 770 (+9.5)
乗用車 431 (+39.5) 352 (-18.3) 496 (+40.9) 260 (+14.0) 545 (+10.0)
販売 自動車計 604 (+39.5) 484 (+4.1) 765 (+58.1) 418 (+12.8) 860 (+12.4)
乗用車 425 (+34.4) 359 (-15.5) 541 (+50.7) 284 (+13.0) 611 (+12.9)
マレーシア 生産 自動車計 531 (+20.1) 489 (-7.9) 568 (+16.2) 273 (-6.9) 585 (+3.0)
乗用車 485 (+20.3) 447 (-7.8) 522 (+16.8) 270 (-6.6) 543 (+4.0)
販売 自動車計 548 (+12.5) 537 (-2.0) 605 (+12.7) 297 (-1.3) 608 (+0.5)
乗用車 497 (+12.2) 486 (-2.2) 544 (+11.9) 267 (-2.3) 546 (+0.4)
出典)TAIA, GAIKINDO, MAA, 2011年見通しは各種情報から筆者推計。

図1●ASEAN3ヵ国の自動車販売台数(2000〜2011年)
図

出典)TAIA, GAIKINDO, MAA

表2●ASEAN3ヵ国の自動車生産台数の推移

(千台)
  タイ インドネシア マレーシア
2000年
01年
02年
03年
04年
05年
06年
07年
08年
09年
10年
11年
412
459
585
752
928
1,125
1,188
1,287
1,394
999
1,645
1,800
292
279
299
322
422
501
296
412
601
465
703
770
359
429
457
424
472
564
503
442
531
489
568
585
*2011年は見込み
出典)TAIA, GAIKINDO, MAA

ASEAN(東南アジア諸国連合)の自動車市場の発展を振り返ると、自動車先発国のマレーシアが小さな市場ながらも長いこと首位を守った。トップの座がタイに移ったのは2003年からであり、インドネシアに追い抜かれたのも2008年(図1)である。だが乗用車に限って言えば、マレーシア(2010年:54.4万台)が依然としてASEANのなかで最大の乗用車市場を誇っている(注1)

自動車産業は、ASEANでも輸入代替工業化の柱として手厚く保護されてきたが、1997年のアジア通貨危機で大打撃を受けた。不振の内需からの脱却を図るためタイの自動車業界は、暴落したバーツを逆利用して輸出市場の開拓に踏み切った。さらにIMFの指導やWTOの規定により、国内部品の使用義務という国産化規制を2000年から撤廃したタイとインドネシアは、すでに動き出したAFTA(ASEAN自由貿易地域)の貿易自由化の路線に沿って、2000年代に入ると自動車産業をこれまでの国内市場向けから輸出向けに徐々に転換した。1983年から国民車政策を導入していたマレーシアも自動車輸出を国民車の生き残り戦略として取り入れた。

その結果、いち早く輸出化に取り組んだタイは、「アジアのデトロイト」をスローガンに2005年に自動車生産が100万台を突破した。その後は政情の不安定と国際金融危機の影響などで踏み留まっていたものの、昨年2010年に一気に165万台の水準に達した(世界12位)。自動車生産の半分以上に当たる90万台が輸出され、タイは文字通り東南アジアにおける最大の自動車生産・輸出拠点となった。タイ政府は2015年までに250万台の生産(輸出:150万台)をめざしている。

2010年1月からAFTAの関税撤廃が実現した。先行加盟6ヵ国の域内で完成車輸入が完全自由化し、国内車と域内車とが対等に競争する時代に変わった。また2010年までにASEANプラス・ワンと呼ばれる域外国とのFTA(自由貿易協定)が6ヵ国と発効した(中国、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、インド)。これによってASEANの自動車産業を取り巻く環境も変わり、タイ、インドネシア、マレーシアの各国政府は、自動車産業の活性化と競争力強化のために環境対応車のエコカー及び低価格の小型乗用車などを優遇する政策を導入するようになった。タイとインドネシアの自動車メーカーは9割以上が日系自動車メーカーであり、国民車が市場の6割を占めるマレーシアでも、国民車以外はほとんどが日系自動車メーカーである。しかし、中国・インドの間で成長するASEAN自動車市場に欧米車のみならず、韓国車、中国車も猛攻をかけている。以下では、タイ、インドネシア、マレーシアにおける最近の自動車産業と企業の戦略、AFTA、FTAと自動車輸出について概観する。

2.タイ〜小型乗用車エコカー計画とマザー工場

タイの自動車生産は、ピックアップトラックがベースになっているが、最近では小型乗用車の生産が大幅に増加している。タイの近年の自動車政策は、外資企業に対する投資誘致優遇策によってタイを自動車の生産・輸出拠点にしたいという明確な方針がある。最初は商用車に共通する低い税率の物品税を適用して1トンピックアップトラックの生産・輸出をタイに根づかせた。タイはASEAN諸国のなかで地場の金型産業が最も進んでいる。さらに150社以上の進出日系自動車部品メーカーに支えられて、日系自動車メーカー各社は需要のあるピックアップトラックの生産を日本からタイへ移管した。2005年ごろには1トンピックアップトラックは自動車生産の7割を占めた。三菱や2004年のトヨタのIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)戦略によってピックアップトラック生産・輸出が拡大したことはよく知られている。日本で開発された車種を現地生産するという従来のやり方ではなく、IMVは需要に適した車種の開発から部品調達、生産、輸出まで一貫して現地で完結させるという世界戦略車の時代に先鞭をつけた。

ピックアップトラックに続く第二弾目の成長戦略は、2007年にタイ政府が発表した環境対応車「エコカー・プロジェクト」である。エコカーに認定された1300t以下の小型乗用車に対して、物品税を通常の30%でなく、17%を適用するほか、法人所得税の8年間免除、設備機械の輸入税免除などの優遇措置を導入した。エコカー・プロジェクトに日系5社が参加することになり、世界金融危機で出鼻をくじかれたものの、2010年から低燃費・低価格の小型乗用車が順次生産開始されている。

2010年3月から日産のサムットプラカン工場での新型「マーチ」(1200cc)の生産集約がエコカー第一号として動き出した。新型「マーチ」は日本からタイに生産を完全に移管し、タイをマザー工場と位置づけて、2010年に9万台生産(うち7万台を輸出)を開始した。円高を活用して日本での販売分は全量タイのマザー工場から逆輸入するという画期的な試みである。新型「マーチ」は、設計段階から部品メーカーと小型化や生産コスト抑制を検討し、タイでの部品の現地調達率87%、インドや中国からの部品を含めると95%を新興国内で調達してコスト削減する(注2)。「マーチ」に続いて、日産はセダンタイプのエコカー(1200t)を2011年9月から生産開始する。また、日産は地域統括拠点をシンガポールからタイに移し、「アセアン新中期経営計画」を発表して(2011年7月)、タイとインドネシアを中心に研究開発(R&D)の強化を含む現地化の推進などASEAN戦略に意欲的な方針を打ち出した。

エコカー第二号はホンダの小型車「ブリオ」。2011年3月に生産を開始した。今後は2012年3月に三菱が小型車「グローバルスモール」(1200t)を投入する。これも新たに開発されたタイ産の新モデルとなり、Bセグメント市場の購買層を対象にしているという。2013年までにエコカーは日系5社全体で60万台の生産規模になり、タイの小型乗用車生産を確実に引き上げていく。

さらに2010年にはタイ政府は国内で生産されるハイブリッド車に物品税を低率の10%を適用した(2010年初めにトヨタ「プリウス」の生産が始まった)。また代替燃料「E85」対応車(ガソリンにエタノール85%混合)や天然ガス車にも税面での恩典措置が付与されることになった。このようなBOT(タイ投資委員会)の積極的な投資奨励策の他に、小型乗用車の生産が拡大傾向にあるのは、タイばかりでなくインドネシアなど他のASEAN諸国でも見られるように、所得上昇にともないクルマを買える層がふくらんできたこと、さらに交通渋滞に直面して、燃費の良い小回りのきく小型車が今改めて注目されるようになったからだ。

タイの乗用車生産は2010年に77.0%もの大幅な伸びとなり、55.4万台を記録した。これは乗用車国マレーシアの52.2万台を上回り、タイが乗用車でも初めてASEAN最大の生産国となった。その結果、2010年にはピックアップトラックが全体の3分の2、乗用車3分の1という比率になった。ただ、ピックアップトラックは2011年から次世代モデルを投入し始めているので、新規需要が喚起されるほか、地方では多人数乗りのライフスタイルに変わりがなく、またすでに海外での輸出競争力があるので、乗用車への急速なシフトは当面なく、両者の生産比率は50:50になろう。

3.インドネシア〜東南アジア最大の自動車市場へ

インドネシアの自動車生産は、アジア通貨危機以前の生産レベルを超えたのがタイとマレーシアよりも遅れて、2004年(42万台)。同年発足したユドヨノ政権のもとで6%台の堅実な経済成長率によって政治経済が安定しはじめたのを反映して、自動車市場は拡大基調に入った。2010年にインドネシアの自動車販売台数は前年比58.1%伸び、これまで最高の76.5万台に達した。2011年に入っても、需要の拡大が続き、上半期の自動車販売は前年同期比12.8%増の41.8万台に達した。2011年通年では86万台になるだろう。

インドネシアの自動車保有率はまだ3.6%にすぎない(注3)。バイクの市場は2010年で自動車の10倍の700万台(これは中国・インドに次いで世界第3位の市場)、モータリゼーションが飛躍すると言われる1人当たり所得3,000ドルの水準を2010年に超えたばかりなので、今後は二輪車から四輪車への乗り換え需要が急速に進み、2.4億人の国内市場を背景に、中国・インドに次いで成長するアジア新興大国のインドネシアがタイ市場(2010年:80万台)を追い越してASEAN最大の自動車市場になるのは時間の問題だろう。

インドネシアの自動車市場の特徴は、乗用車7割:商用車3割という構図だが、乗用車と言ってもセダンではなく、低価格の家族向け多目的車(MPV:1300t〜2000t)が全体の3分の2。主力のミニバン「キジャン・イノーバ」、小型MPVの「アバンザ」を持つトヨタは生産能力を現行の10万台から2013年までに14万台へと拡張するという。

インドネシア政府はタイと同様に低燃費小型車及びクリーンエネルギー車の生産・輸出拠点化のために優遇政策を導入しようという姿勢がある。まだ具体的な優遇政策が発表されていないが、ヒダヤット工業相は2010年から低価格ながら環境負荷が小さい「グリーン・カー」生産の支援策をたびたび示唆している。

日系自動車メーカーはインドネシアの自動車市場の拡大を見込んで対応を急いでいる。ダイハツは2012年末までに第2工場の増設を計画し、工場内にR&Dセンターを設置するなど、より現地に根ざした低燃費小型車の開発を狙っている。日産はタイのエコカー「マーチ」に次いでインドネシアでも2010年12月に2列シートの小型ハッチバック「マーチ」を投入、そして2011年5月には小型スポーツ多目的車(SUV)「ジューク」の現地生産を開始した。その結果、2011年の日産車の販売が大幅に伸びている。これらは日産の「アセアン新中期経営計画」の一環でもある。一方、ホンダは2011年5月に主力の小型MPVハッチバック「ジャズ」(1500t)の新モデルを投入した。

タイと同様に、インドネシアでも自動車市場の9割以上を日系自動車メーカーが掌握している。しかし、東南アジア最大になることが確実視されているインドネシア自動車市場に、最近になって欧米大手が猛攻をかけ始めた(注4)。米国フォードとゼネラル・モーターズが小型車の販売を大幅に伸ばしている。独BMWも組立ラインを増強している。クライスラーは販売網を拡充する。ゼネラル・モーターズと独フォルクス・ワーゲンは自社工場を建設してMPVの現地生産に乗り出すようだ。日本勢は大きな試練に直面することになろう。

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