記者の窓
「町工場の底力に期待」
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千葉 龍太
神奈川新聞社 |
◇2001年当時、工業専門紙の記者として神奈川・県央地区の支局に配属された。そこで地域の町工場を数多く取材する機会に恵まれた。
時は中国進出ブーム。大手、中堅企業ともこぞって現地拠点を設立していた。当時の取材メモを読み返すと、人件費の安い現地の下請け企業に仕事を奪われ、廃業する町工場が相次いでいたのを覚えている。現在、生き残っている町工場はそのときの競争を勝ち抜いた経験がある。それが、再び厳しい競争にさらされている。大手企業から町工場まで、自動車や電機関連を中心とした企業が数多くあるものづくり大国$_奈川。自分が生まれ育った場所でもある。地元紙の記者になってから、前職時代にも増し、地域の工業団地などを頻繁に歩くようになった。経営者たちの話を聞くと、やはり自動車産業などを支える町工場は、未曾有の危機に襲われていると実感する。
◇横浜市港北区の工業団地。ここの一角に、仕事に見切りをつけた板金業者がいた。加工技術には自信があったが、いかんせん仕事が回ってこない。職人を自負する、叩き上げの社長は「そろそろ潮時」と考えていた。そんなとき、中国企業からスカウトされた。「当社に来て持っている技術を伝授してほしい」と。家族と相談した結果、会社をたたんで入社することを決めた。「同じような町工場が増える可能性がある」と同業者は囁く。
東日本大震災以降、急激な円高をはじめとする多重苦に見舞われる国内製造業。「もはや国内にとどまるメリットは少ない」とする声を、あらゆる取材先で耳にする。
ただ、大手や中堅企業の場合、国内環境が悪化すれば、海外シフトで対応できる。円高で収益性が低くなれば、仕入先に価格を下げるよう要請もできる。深刻なのは、逃げ場がなく体力もない中小零細の町工場と言える。財務省・横浜財務事務所が発表した7〜9月期の神奈川県内の法人企業景気予測調査では、大企業の景況判断BSIがプラス14.7だったのに対して、中小はマイナス17.3。大手と中小の格差は依然開いたままだ。
◇自動車関連など製造業100社以上が入居する県央地区の工業団地。震災以降、持ち直しの兆しが見えてきた。休業していた震災直後とは一変し、連日残業している企業もある。だが、工業団地のようすを長年見続けている団地組合幹部は不安感が拭えない。「忙しいように見えているが、利益を出している企業が果たして何社あるだろうか……」。
同団地の企業に限らず、最近になって多くの経営者が口を揃えるのは、“受注内容の変化”。近隣の研究所などから試作品を「急いで造ってほしい」と短納期の仕事の割合が高まってきたという。利益が大きい量産品の注文はめっきり減り、少量品が中心となった。しかも受注価格は低い。団地幹部は「仕事は忙しいが利益は出せない悪循環に陥っている」と説明する。
「日本の品質と変わらなくなっている」。湘南地域の精密板金業者の社長は、上海で目にした現地同業者に危機感を覚えた。「高度の加工機械があれば世界中どこでも一定の製品が造れる。そうなると労働コストの安い国の方が有利」と社長。取引先の半導体装置メーカーは円高対応で低コストの海外部品を使い始めた。それに伴い、受注量は3割落ち込んだまま。「海外に出るしかないと思うが、進出の困難さを考えるとふん切りがつかない」と社長は頭を悩ます。果たして中小企業に活路はあるのだろうか―。
◇こうしたなか、生き残りをかける中小の“逆襲”は始まっている。海外勢には知恵と技術で対抗する。川崎の機械部品メーカーは、生産性を従来の3倍、4倍に高めようと独自の生産改革を進める。副社長いわく「短納期で高精度、おまけに低価格で請け負える技術力があるのは国内の町工場だけ」と自信を示す。県西地区の精密板金加工業者は、数億円を投じ、最新鋭の加工設備を導入。あえて国内で勝負に出た。極限の自動化により「人手をかけない製品づくり」を進める。「自動化を徹底させれば、海外とも遜色ない価格で造れる」と幹部は話す。産業空洞化が危惧されるなかでも、国内で生き残ろうと勝負に出る企業は少なくないのだ。そうした企業を取材するたび、将来への希望が沸いてくる。国内ものづくり産業の復活は、下支えする中小製造業の力にかかっている。町工場の底力を信じ、期待したい。今こそ、知恵を絞るときだ。
(ちば りょうた)

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