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[ライフステージでみるクルマの楽しみ方]

クルマの楽しさを思う

モータージャーナリスト 御堀 直嗣

はじめに

ドイツでも、クルマ離れが起こっていると聞きます。また、アメリカでは、ガソリン価格の高騰により、クルマに乗れず街を歩いている人が増えていると聞きます。かつて、アメリカでは歩くことの方が危険だと言われていたほどですから(ニューヨークのマンハッタンなどは別です)、私はその話に驚きました。

こうした話は、日本にあまり伝わってきません。そして、「若者のクルマ離れ」だと言って、多くの方々が心配されています。

しかし、私は、本当にそうなのだろうか? という印象を持っています。なぜなら、昭和30年(1955年)、東京生まれの私が育ってきた環境をもとに経験談を申し上げれば、小学校から大学までの児童・学生時代、クラスの中でクルマの話に熱中しているのは数人しかおらず、さらにモータースポーツにのめり込むなどという数はもっと限られていたからです。「レースに興味がある」と言えば、親戚中から暴走族と同一視された時代です。そんな中、細々とクルマに憧れ、密かにレーサーになる夢を追い続けたのが私の青春でした。

事実、クルマ離れは起きているのかもしれません。しかしそれは、いつの、何を基準に評価するのかによって、判断は異なってくるでしょうし、そのことへの対応も違ってくるのではないかと思っています。一言で片づけられる課題ではないという認識が重要だと、私は考えます。

そのうえで、私の周囲の人々のクルマとの関わりを、ここで紹介してみましょう。

若者世代のクルマとの関わり方

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学生が、マシンの企画・設計・製作・レースを行う“全日本学生フォーミュラ大会”。
写真提供:公益社団法人 自動車技術会
私の年代の友人たちの子どもは、ちょうどいま20歳前後から30歳になるかどうかという年齢です。その子どもたちの中に、クルマ好きの男子が二人います。ひとりは文系の大学を卒業し、もうひとりは理工系の大学院を卒業して就職するところです。

まず、文系の大学を卒業した彼ですが、なにしろクルマ尽くしの日々を送っており、学生時代から自動車雑誌を読み漁っていました。また、いまの時代、ネットで検索しては、新車情報を集めるのはもちろん、各地で行われている体験試乗会を見つけて出かけて行き、新車試乗をしていました。まるで自動車ジャーナリストのようです。

アルバイトも、レンタカーの洗車の仕事を見つけ、地下駐車場で洗車に明け暮れていました。

その彼が就職先として候補に挙げたのは、新車販売ディーラーとJAFでした。彼の父親は銀行勤めで、自動車関連に勤めることを不安視し、母親が私のところに業界のようすを訊ねてきました。「クルマ離れ」という言葉は広く世間に伝わっており、彼の両親は、業界の行く末と、息子の将来を心配したのでしょう。

結局、彼の意志は固く、新車販売ディーラーに勤務しました。そして研修を終えると、さっそく何台かの契約を実現しました。自動車ディーラーに勤める知人は、その話を聞いて「天性があるのでは?」と言ったほどです。

ところが、入社して2年たつかどうかの折、会社の人員削減にあい、退社します。次に彼が選んだのは、ハイヤー会社でした。いまは、休む間もなく各地へハイヤーを運転して行きますが、学生時代から新車試乗などに出かけ運転することが好きだった彼にとって、楽しい日々のようです。給与体系も良いらしく、新車を乗り継いで、すでに3台目をいま選ぼうとしています。そういう若者もいるのです。

もう一方の、理工系大学院を卒業し、今年社会人となるほうの彼は、モーターショーへ一緒に行くと、イタリアのスポーツカーなどの写真を撮ってご満悦でした。大学の仲間から中古のオートバイを買ってきたかと思うと、次に、安く中古車を譲り受け、乗っています。

その際、自宅の近所に置きたいと言っていたようですが、父親に駐車場代が高くてだめだと言われ、東京都下の大学近くに置く場所を確保したようです。彼の実家は都心にあるので、駐車場代が月に5〜6万円は下りません。父親はすでにクルマを所持しており、2台目のクルマを置く駐車場代は払えないと言うわけです。それでもめげないところに、彼のクルマやバイクへの愛着が表れています。

彼は、理工系ということもあり、友人に誘われたとかで、自動車技術会が主催する学生フォーミュラに挑戦しました。まだその大学は優勝経験がなく、優勝をめざして頑張っていましたが、結果は聞いていません。ただ、上級生になってからも後輩の指導をやり、熱心に取り組んでいるようすを父親から聞いています。

そういう彼は、クルマやオートバイだけに夢中なのではなく、高校生のころからスポーツもやっていたので、クルマ一辺倒という先ほどの若者とは違います。それでも、スポーツクラブの先輩に、イタリアのオープンスポーツカーに乗せてもらったと、喜んでいたこともありました。

彼が、就職先に選んだのは、国内のトラック・バスメーカーです。そして、近々装着が義務化される動きのあるプリクラッシュ・セーフティの開発に関わりたいと、意欲を燃やしています。

さて、こうした二人の青年のようすを見聞きしていると、とても「若者のクルマ離れ」とは思えないのです。それぞれに、クルマへの思いを自分の人生にうまく採り入れています。多数ではないかもしれないけれども、私の学生時代の経験からすれば、ほぼ同じ程度の数のクルマ好きの姿をそこに見ることができます。

30〜40代女性がクルマに求めるもの

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クルマ選びは、クルマへの関心+生活実感+嗜好。
写真提供:トヨタカローラ神奈川
次に、40代前後の、家族にとってのクルマを見てみましょう。私の仕事仲間の女性編集者には、中学受験を控える女の子がいます。親子3人の家庭で保有するクルマはドイツ車です。はたから見れば、それはクルマ好きが選ぶブランドと言えます。

もう一家族、彼女の友人であるスタイリストの家庭には、やはり同じくらいの年齢の男の子がいます。そちらの家で所有するのは、北米で人気を得た国産SUVです。

どちらも、クルマとしてブランドのたった車種と言えます。

彼女たちが過ごした20代は、バブル経済のときで、その世代の女性は、単にブランドだから物を選ぶのではないけれども、ブランドの良さを経験した世代と言えるでしょう。良い物は良く、それは結果としてブランドとして名高い物の中にあるという実感を持っています。

では、それらのクルマを楽しんで運転しているのかと言えば、普段は子どもの送り迎えなどでしか使われていないようすです。運転も、必ずしも好きではないといった雰囲気が話の端々から伝わります。「ドイツ車のハンドルが重い」などと言っていました。高速走行を主体に考えるなら、確かに手応えのしっかりとしたハンドル操作が求められます。一方、日々、子どもの送り迎えや買い物に近所を駆けまわるクルマの使い方であれば、ハンドル操作が軽い方が楽であるに決まっています。

二人の女性とも、端的に言えば、クルマにさして興味がないということでしょう。しかし、動けばなんでもいいというほど無関心ではありません。やはり名の通った良い物という物選びが、背景に伺えます。

そんな中で忘れられない一言に、「雨の日とか、いざクルマが必要なときにバッテリーがあがっていたりするのよね」という不満があります。それを聞いて、私は、「電気自動車なら、家で充電して走るから、バッテリー上がりの心配はいらないよ」と教えると、とても興味深そうでした。

電気自動車の良さは、ゼロエミッションだけでなく、日々使う上での不満や不安を解消してくれるかもしれないという点に反応したのです。日常生活を滞りなくやり繰りするため、いかに不安なく、便利に使えることが彼女たちにとって大切な物選びであるかということが浮かび上がってきます。

ある自動車メーカーに勤める女性インタビューで、彼女が語ったなかに、「男性は物を買い、女性は事を買う」との話がありました。まさに、生活の中で不安を与えない、それでいて本物志向であるというのが、家族を預かる40代の女性のクルマへの視点ではないかと思うのです。

「良い物であれば、多少高くても買う」

と、いうのが、彼女の言葉です。

それに対して、「良い物だとわかっていても、高い物は買わない」と答えたのが、30代の女性でした。

40代の女性は、社会へ出て自分の稼いだお金を使える時期にバブル経済を体験しているので、良い物を知っています。一方、それ以後の世代は、いくら良い物であっても、簡単にお金を使ってしまうことへの不安があり、生活への防衛本能が先に働くようです。これは実に卑近な例ですが、30歳を目前に控えた私の甥は、「景気が良かった経験がないんだよね」と、言います。

話が40代の家族からややそれましたが……クルマへの関心と、生活実感、端的に言えば経済情勢、そしてクルマへの嗜好が、複雑に絡み合っていることも、クルマの販売動向に関して忘れてはならない点でしょう。

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