車室内VOC(揮発性有機化合物)低減に対する自主取り組み

近年、シックハウス症候群の一要因として問題視されているVOCにつきまして、車室内の環境に配慮したクルマづくりに取り組んできた自動車メーカー各社は、業界全体で研究を進め、『車室内VOC低減に対する自主取り組み』を策定し対応を行っています。ここでは、その取り組みの概要と、住宅とは異なる自動車の使われ方や環境を考慮した『車室内VOC試験方法』の概要について説明いたします。

  1. VOCとは
  2. VOCが環境、人体に与える影響
  3. 車室内VOC低減に対する自主取り組み
  4. 車室内VOC試験方法
  5. 今後に向けた取り組み

1.VOCとは

●VOC=揮発しやすい有機化合物

VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)とは、常温で揮発しやすい有機化合物のことで、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレン、ホルムアルデヒド、トルエン、ベンゼン、キシレンなどがよく知られていますが、そのほかにもアルコール類やケトン類などさまざまな種類が存在します。これらの化学物質は、揮発しやすいこと(乾燥しやすい)や親油性を持つこと(油汚れを落としやすい)などの特徴をいかして、塗料、接着剤などの溶剤または洗浄剤として産業界で広く利用されてきました。
現在、WHO(World Health Organization:世界保健機構)が規定している分類方法が最も一般的に用いられており、以下のように沸点で分類されています(表1)。
ここではこれらを総称してVOCと呼ぶこととします。

表1.WHOによるVOCの分類
沸点 名称 VOCの例と沸点
50℃未満 高揮発性有機化合物(VVOC)
Very Volatile Organic Compounds
メタン(-161℃)、ホルムアルデヒド(-21℃)、 メチルメルカプタン(6℃)、アセトアルデヒド(20℃)、 ジクロロメタン(40℃)
50℃以上
260℃未満
揮発性有機化合物(VOC)
Volatile Organic Compounds
酢酸エチル(77℃)、エタノール(78℃)、ベンゼン(80℃)、 メチルエチルケトン(80℃)、トルエン(110℃)、トリクロロエタン(113℃)、 キシレン(140℃)、リモネン(178℃)、L ニコチン(247℃)
260℃以上
400℃未満
半揮発性有機化合物(SVOC)
Semivolatile Organic Compounds
クロルピリホス(290℃)、フタル酸ジ-n-ブチル(340℃)、 フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(390℃)
400℃以上 粒子状有機化合物(POM)
Particulate Organic Matter
PCB、ベンゾピレン

2.VOCが環境、人体に与える影響

●VOCの影響

VOCは光化学オキシダントや浮遊粒子状物質(SPM)の二次生成粒子の主たる原因物質となり、大気環境への影響、また水質への影響など、環境に影響を及ぼす可能性のあることが指摘されています。
一方、近年では、新築あるいはリフォーム直後の家やビルなどに入ると目がチカチカしたり鼻やのどに刺激を感じるなどといった、いわゆるシックハウス症候群への関心が高くなっていますが、VOCはその原因のひとつと考えられており、人体への影響についても注目されるようになってきています。

●VOCの室内濃度に関する指針値

こうしたことから、厚生労働省は「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」において、ホルムアルデヒドをはじめとする13物質の室内濃度指針値を策定しました(表2)。

<解説>
シックハウス症候群-厚生労働省の参考定義
住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装材の使用を一因として、新築・改装後の住宅やビルにおける居住者のさまざまな体調不良が報告されています。症状が多様であり、症状発生の仕組みをはじめ未解明な部分が多く、さまざまな複合要因が考えられることから、シックハウス症候群と呼ばれています。
表2.厚生労働省が定めた13物質の室内濃度指針値(2019年1月改定)
物質名
室内濃度指針値
主な発生源
ホルムアルデヒド
100μg/m3(0.08ppm)
合板、壁紙などの接着剤
トルエン
260μg/m3(0.07ppm)
内装材、家具などの接着剤、塗料
キシレン
200μg/m3(0.05ppm)
パラジクロロベンゼン
240μg/m3(0.04ppm)
衣類の防虫剤やトイレの芳香剤
エチルベンゼン
3800μg/m3(0.88ppm)
合板、家具などの接着剤、塗料
スチレン
220μg/m3(0.05ppm)
断熱材、浴室ユニット、畳心材
クロルピリホス
1μg/m3(0.07ppb)但し小児の場合は
0.1μg/m3(0.007ppb)
防蟻剤
フタル酸ジ-n-ブチル
17μg/m3(1.5ppb)
塗料、顔料、接着剤
テトラデカン
330μg/m3(0.04ppm)

灯油、塗料

フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
100μg/m3(6.3ppb)

壁紙、床材、電線被覆

ダイアジノン

0.29μg/m3(0.02ppb)

殺虫剤

アセトアルデヒド

48μg/m3(0.03ppm)

建材、壁紙などの接着剤

フェノブカルブ 33μg/m3(3.8ppb) シロアリ駆除剤

3.車室内VOC低減に対する自主取り組み

●車室内環境に配慮したクルマづくりのために

自動車メーカー各社は、地球温暖化防止や大気環境改善、循環型社会の構築等、環境に関する諸課題に対し積極的に取り組んでいます。同様に車室内の環境に配慮したクルマづくりも進めています。
自工会では、車室内を居住空間の一部と考え、業界全体で研究を進め、住宅とは異なる自動車の使われ方や環境を考慮した『車室内VOC試験方法』と『車室内VOC低減に対する自主取り組み』を2005年に策定しました。

●車室内VOCの特徴

自動車の車室内は、住宅や家電など日常生活で使用されているものと同様な素材が使用されており、これらの素材から揮発する物質の混合物が車室内のVOCとなります。また、自動車の車室内VOCには次の3つの特徴があります。

  1. 経時変化
      車室内のVOC濃度は、一般的に時間とともに低減していきますが、物質によってその低減の度合いは異なります(図1・2)。

    図1.ホルムアルデヒド濃度の経時変化
    図1
    図2.トルエン濃度の経時変化
    図2
  2. 温度依存性
    車室内のVOC濃度は車室内の温度によって異なります。炎天下で駐車している自動車の室内では濃度が高くなる場合があります(図3・4)。

    図3.ホルムアルデヒド濃度の温度依存性
    図3
    図4.トルエン濃度の温度依存性
    図4
  3. 換気の効果

    走行中の窓開けやエアコンの外気導入などによる換気を行うことで、車室内のVOC濃度は大幅に低減します(図5・6)。

    図5.ホルムアルデヒド濃度の換気の効果
    図5
    図6.トルエン濃度の換気の効果
    図6

●3つの特徴のまとめ

前記の特徴より、高温・密閉状態の新車室内ではVOC濃度が高くなる場合がありますが、換気性能が高いため、乗車・走行時には濃度は大幅に低減します。

●自工会の自主取り組み

自工会は、快適な自動車をユーザーの皆様に提供することをめざし、自動車の使われ方や、環境を考慮した最適な試験方法に関する研究や実態調査等を行い、2005年に『車室内VOC低減に対する自主取り組み』を策定しました。

『車室内VOC低減に対する自主取り組み』
厚生労働省の室内濃度に対する指針値指定13物質に対し、乗用車については2007年度発売の新型車から、トラック・バス等商用車については2008年度発売の新型車から指針値を満足させる。厚労省指針値改定に伴い、2022年以降発売の新型車から新しい指針値を満足させる。また、それ以降も各社さらに室内濃度低減に努める。
※国内で生産し、国内で販売するものを対象とする。
<解説>
1)
厚生労働省の室内濃度に対する指針値とは、厚生労働省「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」が答申した室内濃度指針値をさします(表2参照/13物質・2002年1月設定、2019年1月改定)。
車室内のVOCとしては、厚生労働省「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」での室内濃度指針値策定13物質のうち、以下の物質は防蟻剤、防虫剤であり住宅特有の物質であるため、捕集の対象から除外する。
・クロルピリホス・ダイアジノン・フェノブカルブ・パラジクロロベンゼン
2)
試験方法については、上記「検討会」で定められた「室内空気中化学物質の採取方法と測定方法」をもとに、自工会で研究を進め、乗用車としての使われ方や環境を考慮した試験方法『車室内VOC試験方法』を2005年に策定しています。
3)
2012年7月にグローバル標準であるISO12219-1(以後ISO)が制定されたことから、対象となる乗用車についてはISOに沿った試験方法に切り替えています。また、ISOの対象外となっているバス・トラックなどについては、従来の自工会試験方法を基に制定したJASO Z-125-2018試験方法(2009年制定/2018年改訂 : 以後JASO)を採用しています。(図7及び4.車室内VOC試験方法を参照
図7.車室内VOC試験方法概要
図7

4.車室内VOC試験方法

I.試験車両

通常の製造工程を経て製造され、組立・検査終了後、ISOまたはJASOで規定する日数(ISOの例:28±5日)の車両またはそれに相当する車両を用いる。

II.試験方法

試験は、試験スケジュール(図[1])に沿って実施する。また各物質の捕集・分析方法を(表[1])に示す。詳細条件はISOまたはJASOに準拠する。

図[1] 試験スケジュール
図[1]
表[1] 各物質における捕集・分析方法(注1)
捕集・分析方法
ホルムアルデヒド 固層吸着・溶剤抽出
高速液体クロマトグラフィー
(DNPH/HPLC)
アセトアルデヒド
トルエン 固層吸着・加熱脱着
ガスクロマトグラフィー質量分析
(TENAX/GCMS)
キシレン
エチルベンゼン
スチレン
テトラデカン
フタル酸ジ-n-ブチル
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
パラジクロロベンゼン 住宅特有の物質のため捕集・分析せず
クロルピリホス
ダイアジノン
フェノブカルブ

(1)プレコンディション
  初期の車室内空気質を試験槽内空気質と同等にするため、プレコンディションを行う。また、試験槽内及び車室内の空気捕集や車室内温度を制御するための準備を行う。

(2)密閉放置モード
 密閉された車両に乗り込んだ直後の空気質測定を目的として行う。

(3)乗車モード
 走行中の室内空間の空気質測定を目的として行う。

(4)個別物質の分析
 分析方法は、ISOまたはJASOに示す方法に準ずる。

(5)結果の処理

1)
同一条件にて捕集した個別物質濃度分析値の平均を測定値とする。
2)
ホルムアルデヒドについては、密閉放置モードの濃度を、その他の物質については、乗車モードの濃度を車室内濃度とする(注2)。
但し、プレコンディションの試験槽内濃度測定値と乗車モードの試験槽内濃度測定値の値が大きく異なる場合や、乗車モードにおける車室内濃度が密閉放置モードにおける車室内濃度を大きく上回る場合には、排出ガスの漏れなど、試験上の不具合が考えられるため、必要に応じて再測定を行う。
(注)
厚生労働省「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」の指針値は、ホルムアルデヒドが短期曝露影響、その他のVOCが長期曝露影響を基に策定されている。この考え方を乗用車に置き換えると、ホルムアルデヒドは乗り込み時の濃度、他のVOCは実際に乗車しているときの平均濃度で規定することが妥当と考えられる。これより、ホルムアルデヒドについては密閉放置モードの、他のVOCについては乗車モードの濃度を車室内濃度とした。

5.今後に向けた取り組み

●今後の取り組みの方向

2012年7月にグローバル標準であるISOが制定されたことから、対象となる乗用車についてはISOに沿った試験方法に切り替えています。また、ISOの対象外となっているバス・トラックなどについては、JAMA試験方法を基にしたJASO試験法を継続していきます。

自工会は、世界に先駆けた自主取り組み対応により実現してきた現在の車室内VOC低減環境を後退させることなく、部品メーカーや材料メーカーと協力して、安全でかつ快適な自動車をお客様に提供しつづけることを目指し、各社さらなる低減に取り組んでいきます。

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