一般社団法人 日本自動車工業会 JAMA

COP30関連イベントレポート

COP30 @ブラジル・ベレンにおける「多様な選択肢」および「持続可能燃料の重要性」の訴求について

1.開催概要:

一般社団法人 日本自動車工業会(会長 片山正則/以下、自工会)は、2025年11月19日、ブラジル・ベレンにて開催されたCOP30会場のジャパン・パビリオンにて、「Diversity in Carbon Neutrality -Accelerating Decarbonization with Sustainable Fuels-」と題したサイドイベントを開催致しました。
開会挨拶として、日伯伊の政府関係者より、2025年9月の持続可能燃料閣僚会議@大阪や、伯主導の持続可能燃料4倍プレッジによる持続可能燃料のモメンタム向上や、欧州での再生可能燃料活用の動きについてご紹介頂きました。
そして、世界の科学的知見の権威であるIPCCの最新報告書の主執筆者をモデレーターとして迎え、欧米の科学者、欧伯の自動車業界関係者、欧州の燃料業界関係者をパネラーとして招き、道路交通部門の脱炭素化について議論しました。

【登壇者】

  • 有馬 純氏(東京大学公共政策大学院 特任教授/IPCC第6次評価報告書WG3, 第17章の主執筆者 第1章序章とフレーミング主執筆者)※モデレーター
  • 米澤 有里彩氏(経済産業省 製造産業局 自動車課 課長補佐)※開会挨拶
  • Helena Gressler氏(ブラジル外務省 エネルギー・鉱山課長)※開会挨拶
  • David Chiaramonti氏(イタリア トリノ工科大教授 バイオフューチャープラットフォーム 議長)※開会挨拶
  • Paolo Frankl氏(IEA(国際エネルギー機関)/再生可能エネルギー課長)
  • Keith L Kline氏(ORNL(オークリッジ国立研究所)/環境科学・気候変動科学研究所 特別研究員)
  • Henry Joseph Junior氏(ANFAVEA(ブラジル自動車工業会)/会長顧問)
  • Petr Dolejsi氏(ACEA(欧州自動車工業会)/モビリティ・持続可能交通部長)
  • Liana Gouta氏(FuelsEurope (欧州燃料製造者協会)/事務局長)
  • 饗場 崇夫氏(一般社団法人日本自動車工業会/国際温暖化政策分科会長)
2.開会挨拶における発言内容:

開会挨拶として、経済産業省の米澤氏は、日本は脱炭素化と経済成長、そしてエネルギー安全保障を同時に達成するためにマルチパスアプローチを推進しており、特定のソリューションに依存することはハイリスクであるため、各国の事情に応じた柔軟なアプローチが必要であると説明されました。また、9月の持続可能燃料閣僚会議や、持続可能燃料4倍プレッジ等、持続可能燃料に関する国際的なモメンタムの向上について強調されました。

ブラジル外務省のGressler氏は、ブラジルと日本は、ISFMのパートナーシップや持続可能燃料4倍プレッジへの署名などを通じて協力関係を構築しており、4倍プレッジについてはこれまでに約25ヶ国が署名するなど、持続可能燃料拡大に向けた国際的取組が拡大していることを説明されました。また、電化と持続可能燃料は補完関係にあり、どちらもネットゼロ目標達成に不可欠である旨、説明されました。最後に、政府からの明確なコミットメントと非国家主体の活動の連携により、2035年までに持続可能な燃料を4倍にするという目標達成に必要な勢いを生み出すことができると言及されました。

イタリア トリノ工科大教授 バイオフューチャープラットフォーム議長のChiaramonti氏は、EUの運輸部門のCO2排出における道路輸送部門の割合は7~8割を占めており、道路交通部門からの排出削減が重要である旨、言及されました。その観点から、欧州CO2規制において再生可能燃料の役割を追記する旨、議会と理事会が提案することの重要性を説明されました。最後に、「バイオフューチャープラットフォームは各国や関係者からの意見や提案を積極的に受け付けており、それらを加盟国の政府に伝達する準備ができている」と述べ、オープンな姿勢で関係者との対話を重視していることを強調しました。

*バイオフューチャープラットフォーム:
第11回クリーンエネルギー閣僚会議(CEM-11)で発足した、化石燃料ベースの燃料、化学製品、および素材に対する持続可能なバイオベースの代替品の開発、規模拡大、導入加速を目的としたイニシアティブ。現在、23ヶ国が加盟。日本はオブザーバーとして参加。IEA(世界エネルギー機関)やIRENA(国際再生可能エネルギー機関)等の国際機関も本イニシアティブを支援。

3.各登壇者からのプレゼンテーションの内容
写真:饗場氏

饗場氏

  • 世界有数のエネルギーシンクタンクである日本エネルギー経済研究所によると、世界の道路交通部門におけるCO2排出は、2050年までにIPCCの1.5度シナリオの水準まで削減していくことが可能。これは急速な電気自動車への転換シナリオだけでなく、ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車等とカーボンニュートラル燃料普及の組合せを前提としたシナリオにおいても達成可能と分析されている。
  • 欧州等を中心に、乗用車および中・重量車の100%ZEV化を宣言する国もある中、各国の1人あたりGDPや電力コストを分析すると、ZEVを推進しやすい国とそうでない国に区別できる。国や地域事情を考慮したマルチパスアプローチは重要。
  • IPCCの大半のシナリオで160EJ以上のバイオエネルギー供給ポテンシャルを予測しており、航空と海運の総必要量よりも圧倒的に多い。道路交通用燃料としても持続可能燃料を活用し全体の供給量増加へ繋げたい。
写真:Frankl氏

Frankl氏

  • IEAは、持続可能燃料4倍プレッジの基盤になったレポートを10月に公表。持続可能燃料はエネルギー安全保障・持続可能性推進・経済発展促進等の観点からメリットがあり、各種政策が実施されれば、世界の持続可能燃料の需給は2035年までに4倍へ増加すると予測。
  • 現在、多くの国で、電化と持続可能燃料が対立軸であるかのような議論がされているが、両者は補完関係にある。今後、電化の推進が行われるが、それでもなお、持続可能燃料が果たす役割は大きい。特に2030年に向けて、道路交通部門でのバイオエタノールの使用は大きく増加すると予想。
  • 10年間で4倍の成長は野心的だが、既存の政策の実施で実現可能。以下の6つの政策を提案している。
    ①地域ロードマップ、②需要の予見可能性向上、③透明なカーボン会計、④イノベーション支援、⑤インフラ開発、⑥資金アクセス改善
写真:Kline氏

Kline氏

  • この分野で45年程度研究しているが、バイオマスや土地は制約ではない。単に焼却されている未利用のバイオマスが多すぎることが問題。多くのバイオマスが未活用なのは、コストが原因。資源管理の改善と効率的なサプライチェーン物流への投資が必要。ブラジル、インド、米国の、エタノール生産拡大の成功事例が参考になる。
  • 間接的な土地利用変化(ILUC)の考えは、実際の土地利用変化の要因を正しく反映しておらず、そのシミュレーション数値がバイオ生産への不確実性をもたらし、投資意欲を損なう恐れがある。
  • 生産された食料の1/3は廃棄されており、単純な生産増は食料問題の解決にならない。バイオエネルギー供給網・市場アクセスの改善が農村生産に付加価値をもたらし、食糧安全保障の対策にも繋がる。
  • 持続可能な供給ポテンシャルを高めるためには、効率的で統合されたサプライチェーンへの投資と、継続的改善へのインセンティブを提供する明確で実践的かつ検証可能なパフォーマンス指標が必要である。
写真:Joseph氏

Joseph氏

  • ブラジルの自動車部門の脱炭素化経路に関するライフサイクルアセスメント(LCA)研究の結果によると、ブラジルの100%エタノールを使用するハイブリッド車のライフサイクル排出量は、電気自動車(EV)とほぼ同等の値であり、バイオ燃料によるCO2削減の可能性を強く示している。
  • ブラジルは、100%EVに切り替えるのではなく、既に存在するクリーンな電力とバイオ燃料供給という基盤によって、道路交通部門からの排出量削減を実現している。
  • 本年9月にANFAVEAとJAMAによる持続可能燃料に関する共同ステートメントを公表。現在は他国(ドイツ、イタリア、韓国、スイス、ベルギー、ルーマニア)自工会にも賛同頂き、計8つの自工会が署名をしている。
写真:Dolejsi氏

Dolejsi氏

  • EUでは、乗用車・バンは2035年までに100%CO2削減、大型トラックは2040年までに90%削減という非常に厳しい目標を掲げているが、現状、欧州自動車産業は競争力を失う可能性のある重要局面にある。
  • 市場予測によれば、2035年のBEV販売は規制目標を大幅に下回る見込み。脱炭素化を確実に達成しつつ、車両の手頃な価格を維持し、産業の競争力を保つためには、現在の規制枠組みは最適ではない。
  • 電動化は主流となるものの、2035年までの100%電動化という厳格な目標から脱却し、技術中立的なアプローチへ移行し、持続可能燃料の役割に余地を残すべき。持続可能燃料は、既存車両からの脱炭素化にも貢献ができる。
写真:Gouta氏

Gouta氏

  • EUでは、技術中立性が軽視され、特定の技術が優先され、持続可能な燃料が道路交通分野から事実上排除されようとしている。
  • ネットゼロ達成には一つの道筋だけでなく、すべての脱炭素化技術を並行して進めるべき。電化を補完する形で、持続可能な燃料(バイオ燃料、e-燃料など)が果たす戦略的役割は大きい。
  • 持続可能燃料は航空機や船舶専用に生産されるということはない。複数の研究では、道路交通部門における持続可能燃料の供給もカバーできると示されている。
  • EUの関係法規において、技術中立性の概念を緊急に再導入し、持続可能燃料の役割を認めることが重要。
  • 2050年までに年間最大4000億ユーロの投資の実現には、野心的で一貫性のある政策、規制の確実性、予測可能な需要が不可欠。そのためにも、IEAの6つの政策優先事項を支持する。
4.有馬先生によるまとめ:
写真:有馬氏

  • 持続可能な燃料を取り巻く現状、見通し、そして課題について、意義深い議論を行うことができた。
  • エネルギー転換に関する議論において重要なのは、「プラグマティズム(実用主義)」、そして何よりも「多様な道筋(diverse pathways)」である。
  • Petr氏が言及されたように、持続可能性は複雑な課題であり、輸送部門における脱炭素化を進める上でBEVが極めて重要な一部となることは間違いないが、同時に、持続可能な燃料も重要な役割を担っていることを確認。
  • 各国・地域の事情は異なり、利用可能なすべての技術オプションを活用することが重要であると確認。
  • 日本とブラジルは、9月の持続可能な燃料に関する閣僚会議、そしてここCOP30においても連携し、ブラジル議長国の主導により、2035年までに持続可能燃料の生産量を4倍にするという野心的な目標が設定された。物事は前進している。そして、多くの国や産業界のグループが、これらの野心的な目標への支持を表明している。
  • 来年のCOP31で、我々が再び集まり、できればJAMAによって再び主催されることを期待し、今後1年間の進捗を確認できることに期待。
5.結果概要

各登壇者からのプレゼンテーション等を通じ、道路交通部門の脱炭素化に向けて持続可能燃料が果たす役割や、日本が進めるマルチパス・アプローチの重要性について理解を深めると共に世界へ発信致しました。自工会としましては、持続可能燃料への適合車両の積極的な導入など、電動化を含む様々な努力を進めていきます。また、世界各国の自動車工業会とともに、共通のゴールである道路交通の脱炭素化の実現に向けた取り組みを、引き続き進めてまいります。

(左上から)
Frankl氏、Gouta氏、
Kline氏、Dolejsi氏、
饗場氏、Chiaramonti氏、Gressler氏、米澤氏、Joseph氏、有馬氏

セミナーの様子

イベント配信録画(英語オリジナル音声)

イベント配信録画(日本語同時通訳音声)

▼COP27@エジプト/シャルム・エル・シェイクにおけるJAMAサイドイベントのレポートはこちら
▼COP28@UAE/ドバイにおけるJAMAサイドイベントのレポートはこちら
▼COP29@アゼルバイジャン/バクーにおけるJAMAサイドイベントのレポートはこちら

ページトップへ