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◆顧客ニーズの多様性にも直面していると思いますが、グローバルで一貫した日産ブランドを伝えていきながらも、同時に異なる顧客ニーズに応えていくにはどのようなアプローチを取っていますか。

クルーガー:日産の全社的なブランドメッセージは、「イノベーション」です。この全体的なブランドメッセージの下に、それぞれの国ごとの環境に合わせてブランド戦略を適応させます。

アメリカ市場では、いかにして顧客の日産ブランド体験を向上させるか、というイノベーションにフォーカスし、これをNissan Power88にも反映させています。日産ブランド体験とは、ハードウェアとソフトウェアの両方に着目したものです。ハードウェアとはつまり自動車、ソフトウェアとは、セールスやサービスを通した体験のことです。

しかしアメリカ国内だけを取ってみても、西海岸と北東部はまったくマーケットが違いますし、南部、北部、でも大きく異なります。異なる車種、リースなのかローンなのか、あるいはキャッシュベースなのか、というようなファイナンスの仕方も地域によって異なります。例えば、北東部はリースが中心です。テキサスを中心とした南部〜湾岸部はトラック市場です。西海岸、特にカリフォルニアはまたまったく違った性質が見られます。

このように、一国内でも多くのマーケットが存在しますから、具体的な手法については、一国を更に地域ごとの小集団に分けてアプローチします。

◆日産のロゴにもあるキャッチコピーは、「SHIFT_」です。どのような意味が込められていますか。

クルーガー:現時点での意味合いは、「われわれがどこに向かってシフトしようとしているか」、です。そしてそれを表現するならば、「SHIFT_Innovation for all」となるでしょう。この意味合いはすべての新車に反映されていますが、まさにイノベーションを代表する最新の代表車といえば、「日産リーフ」です。非常に革新的な商品であり、今までに類を見ない、ゼロ・エミッション車のリーダー格です。他にもアメリカ市場では、アルティマ、パスファインダー、セントラと次々とイノベーションを重ねた新モデルを市場投入しています。イノベーションをどのように表現するか、を常に考えているのです。それにはひとつの商品が革新的であるだけではなく、商品ラインナップ全体が革新的であることが大切です。他の競合自動車ブランドからは得られない、日産ならではの価値ある商品を顧客の視点に立って革新していくのです。

◆日産のミニバンNV200がニューヨーク市のタクシーに採用されました。

クルーガー:はい。ニューヨークのタクシー・アンド・リムジン・コミッションはどの自動車メーカーとパートナーを組むのか、非常に綿密な審査をしていましたから、日産は革新的で適合性の高い自動車メーカーであるということを認められた証だと思います。ニューヨークのタクシーに採用されたことは、大変素晴らしい機会です。ニューヨーク市民はもちろんのこと、世界各地からの観光客がニューヨーク中を移動するために日産車を使うことになるわけですから。ニューヨークのタクシーは、世界中でも最もアイコン的な車ですから、このうえなく光栄です。

◆ところで2011年3月、日本は東日本大震災を経験しました。その後、日本国内外のあらゆる製造業界が少なからず震災の影響を受けました。そのような緊急時でも、影響を最小限にし、いち早く立ち上がるためにもサプライチェーンの多様化が課題として見えたのではないかと思います。グローバル市場でサプライチェーンの最適化を図るためにはどのようにお考えですか。

クルーガー:3.11の後、われわれもたくさんのことを学びました。より強く感じるようになったのは、「サプライチェーン」という考え方はもう古い、ということです。「チェーン」の場合、弱いリンクがひとつあると、チェーン全体を不成功に導いてしまいます。日産での考えは、「サプライチェーン」ではなく、「サプライネットワーク」です。クモの巣のように繋がっており、ひとつの結合部分が弱くなったとしても、全体が崩れ落ちることはありません。このクモの巣型「ネットワーク」を踏まえたうえでどのように最適化するか、ですが、ひとつのシチュエーションに対して最適化を図るのかと言えば、答えは「ノー」です。「サプライネットワーク」は、適応性の高い状態でなければいけませんから、あるひとつの結合部分を最適化するのではなく、ネットワーク全体をある程度最適化させる必要があります。われわれ日産では3.11の前からそれに取り組んでいましたので、3.11の直後、回復がとても早かったのです。そして、われわれのクロスファンクショナルによるコラボレーションを行うDNAも、早期回復に大きく貢献したといえると思います。

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◆2012年10月、テネシー州スマーナ工場での増産体制の実施に合わせて、800人以上を追加雇用すると発表しました。Nissan Americasの成長戦略について教えてください。

クルーガー:現在、ブラジルとメキシコに新工場を建設中で、さらに、テネシー州デカードには、ダイムラーと日産の共同プロジェクトによる新エンジン工場を建設中です。不況の間は生産規模も縮小していましたが、これからは戦略的に拡大していきます。特に、生産の現地化を進めています。インフィニティJXはすでに現地生産していますが、日産リーフの生産を2012年秋から、そしてローグも2013年春からこのスマーナ工場で生産すべく準備を進めています。一国で生産し、世界数ヵ国に流通させる、というモデルはリスクが高くなります。これからは、販売活動を行う市場の中で生産するという現地化戦略で、生産拠点の多様化を進めていく予定です。

2016年までの北米でのゴールは、販売数の85%を北米現地で生産する、というものです。そのために既存の工場をフル稼働させるだけでなく、新工場建設にも取りかかっているわけです。メキシコではすでに3シフト制をとってきたのですが、これまでアメリカで3シフト制をとってきたのはアルティマを生産するキャントン工場のみでした。2012年の年末までに、スマーナ工場の2ライン両方を3シフト制に切り替えて、現地生産に臨みます。

◆ますます現地化が進むと、地域との関係性もより一層重要になってきます。地域社会に対して、日産はどのような役割を担っていくべきであるとお考えですか?

クルーガー:時間とスキル(知識・経験)の両方へ貢献すること、でしょうか。もちろん地域コミュニティへの資金面での支援も行いますが、その地域コミュニティとは、われわれが従業員を雇っている地域のみでなく、われわれが車を販売している地域すべてを含みます。そして各地域で何が必要とされているかを決めるのは現地スタッフです。彼らが直接、地域コミュニティに関与しながら、どのエリアに何がどれくらい必要なのか、判断していきます。例えばここテネシーでは、より良い教育への貢献や低所得家庭への支援などを行っています。グローバルには、非営利団体のハビタット・フォア・ヒューマニティとのパートナーシップがあります。私自身も直接この団体に関わっていますし、他にも米国赤十字の役員理事にもなっています。3.11のときにも、私が関わる米国赤十字では、リソースを日本の被災地救済のために活用し支援しました。

◆日産の理念、価値観を多様な人々の中に浸透させるための秘訣はなんでしょうか。

クルーガー:常々、日産の従業員すべてに日産の価値観を伝えています。彼らはいわば日産の伝道者なのです。彼らは日産のシャツを着て日産車に乗り、各コミュニティの中で日産ブランドを代表して、その価値を伝えているのです。日産ブランドの約束を果たすだけでなく、慈善やコミュニケーションすべてを通し、社会への貢献者となっているのです。日産はただ単に収益を上げるだけでなく、われわれの商品である車、雇用、コミュニティとの相互作用を通して、人々の生活を豊かにすることをめざしています。30年前に日産がテネシーに来てから、このコミュニティが確実に豊かに向上し、成長していると実感しています。その結果、より多くの企業がこの地に興味を持ち、参入するようになってきたのです。日産がこのような地域経済成長の大きな支えになっていることは、非常に喜ばしいことです。

30年前に自動車メーカーがテネシーのような南部に拠点を構えるのはまれなことで、日産が初めてでした。日産はこの面でも革新的で勇敢なのです。その後トヨタが参入し、現代自動車やメルセデスベンツが参入し、最近ではフォルクスワーゲンもこのテネシーに新工場を設立しました。

◆クルーガーさんご自身は、“2011 Automotive News All-Stars”のひとりに選ばれています。ご自身のどのような貢献が表彰に至ったのでしょうか。

クルーガー:私個人の貢献は微々たるものです。チーム全体の貢献によるものだと思います。米国日産現地のチームメンバー達は、不況の間も、3.11の間も、日産の業務回復、そして継続的な成長にコミットし、大きく貢献してきました。そして現在でも成長を続けています。ですからこの表彰は、現地チーム全員に対する「モノづくり」の姿勢への表彰であり、私はたまたまそのチームを率いる立場にいただけです。ほかにもさまざまな賞を受賞しているのですが、それもすべてチームワークの結果です。

日産の強みは、チームです。もし、一個人に頼ったり、グローバル市場の中で一国に頼ったりしていたとしたら、とても脆い体質となってしまいます。しかし部品にしてもヒトにしても、グローバルでのネットワークがあれば、企業を強固にしてくれます。そうすれば、一部分が欠けたとしてもリスク分散することができ、より強固な組織となっていくのです。

◆そんな強固な組織を率いるクルーガーさんがめざすリーダーシップスタイルはどのようなものですか。

クルーガー:私の個人的なスタイルですが、良き聴き手となり、チームが奉仕してくれるのを求めるのではなく、自身がチームに奉仕する姿勢が重要だと考えています。ですから私はチームメンバーに対し、障害を取り除いてくれる存在であって障害を与える存在ではなく、必要な要素を加えてくれる存在であって要素を取り除く存在ではない、というように感じてもらいたいと思っています。同時に、彼らがモチベーションを保ちながらもチャレンジングだと思える要素を与えてあげることです。チームワーク全体としての士気を下げるものでは決してありません。

それから、チームリーダーの多様性も、強い組織のために必要な要素だと思います。例えば日産の販売に関していえば、ブラジルの販売のトップはフランス人です。メキシコの販売のトップはスペイン人です。カナダの販売のトップはアメリカ人です。アメリカの販売のトップはイギリス人です。リーダーの多様性がとても高いことがおわかりでしょう。また、ここテネシーのスマーナ工場のリーダーは女性です。米州の購買リーダーも女性です。デトロイトのエンジニアリーダーも女性です。

国籍、性別、バックグラウンドなど多様性を生かすことは、日産にとって、現在そして将来の能力に非常に重要だと考えています。日産は、クロスファンクショナル、クロスカルチャーな考え方を受容しています。まだまださらにクロスファンクショナルでクロスカルチャーを実現していく余地があると思っていますが、多様性に力を注いでいくことこそが、より一層日産を強固にする鍵だと考えています。

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◆最後に、クルーガーさんにとって車とはなんでしょうか。

クルーガー:私は車のメーカー側ですので、自動車ビジネスに関わっていることにとても誇りを持っています。車は人々の生活のあらゆる場面に必要不可欠なツールです。子どもを学校に連れて行く、仕事に行く、家族や親戚を訪れる、病院に行く…。

車によって、人々の生活を豊かにすることができるのです。そのような業界に関わっているということは、私にとって大きな誇りであり、チームにもそれを忘れてほしくないと思っています。

【あとがき】

「サーバント・リーダーシップ」という概念をご存知だろうか。アメリカで、ロバート・グリーンリーフ博士が提唱したものだ。「支援を通じた信頼関係の上に成り立つリーダーシップ」のことを指す。部下に対し常に上から下の一方向で管理・命令する支配型リーダーよりも、部下の意向を尊重し仲間として協働することで信頼関係を構築しめざす方向へと導くリーダーが理想的といわれている。支配型リーダーよりもサーバント・リーダーの方が個々の潜在的能力を引き出し、組織の結束力を強くする。

クルーガー氏はまさに、個々のメンバーを尊重し、自立を促し、チームの力を信じるといった「サーバント・リーダーシップ」を象徴していると感じさせられたインタビューであった。一言一言、じっくりと噛みしめるような語り口の同氏からは、実直さ、そして謙虚ながらも圧倒的な強さと誇りが感じられた。

(JAMAGAZINE編集室)

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