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記者の窓
「エースで四番」も楽じゃない

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木村 裕明
朝日新聞社

◇経済記者として初めて製造業を担当したのは2001年。巳年だった。松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、三洋電機の家電3社を中心に、関西のメーカー各社を取材する機会に恵まれた。

松下は01年度、主力のAV(音響映像)機器の販売不振が響いて、創業以来最大となる約4,300億円の最終赤字に沈んだ。

「従業員は家族。首は切れん」。松下は創業者・故松下幸之助氏の語録を翻して大規模な希望退職を募り、約1万3千人がグループを去った。これまでの記者生活のなかでも、指折りの大きな出来事だった。

大胆なリストラで松下の業績はすぐにV字回復を遂げた。しかし、11〜12年度は2年続けて7,000億円を超える最終赤字となる見通しだ。干支が一回りする間に、パナソニックが5度も最終赤字を計上し、再び業績不振に苦しむことになろうとは。12年前は考えもしなかった。

当時、希望退職に応じた方々に話を聞いて回ったことがある。彼らはいま古巣の苦境をどう見つめているのだろうか。取材に応じていただいた方々の顔を思い出すと、私の心境は複雑だ。

◇シャープが主力の液晶テレビ「アクオス」を発売したのも01年だった。まだ建設中だった亀山工場を広報担当者と見に行き、その威容に驚いたのも、そんなに遠い昔のことではない。それでも、薄型テレビの価格がここまで下がり、シャープが2年連続の巨額赤字に陥る事態は、当時まったく想像できなかった。製造業を取り巻く環境変化は速く、劇的で、実に過酷だ。年の初めに、あらためてそう思う。

◇日本の経済発展を支えてきた電機産業の苦境を見るにつけ、豊田章男会長がおっしゃるように、いよいよ自動車産業が「日本のものづくりの最後の砦」になってきたとの感は強い。

総務省の労働力調査によれば、国内の製造業の就業者数は1千万人割れ目前まで減ってきている。「六重苦の中で生産活動を続け、理屈を超えて雇用を守っている」(豊田会長)自動車業界への期待は今年、ますます大きくなるだろう。

◇ただ、「エースで四番」を期待される自動車産業だって楽ではないのだ。長引く円高、リーマン・ショック後の世界的な販売の急減、東日本大震災やタイの洪水による減産、尖閣問題を機に吹き荒れた日本車離れと、不測の事態の連続に息つく暇もない。

「製造業は大変だ。緊張して経営している」

富士重工業の吉永泰之社長が昨年、記者会見でおっしゃった言葉だが、経営トップのこの率直な発言に私は素直に共感を覚えた。口にするかしないかの違いはあれど、各社のトップの思いも同じではないだろうか。今年こそ平穏無事な年になることを祈る一方で、変化に富んだ一年になる予感もする。こちらも緊張感を忘れずに、「エースで四番」の活躍を注意深く伝えていきたい。本年もよろしくお願いします。

(きむら ひろあき)

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