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シリーズ 米国拠点のキーパーソンに聞く
グローバル時代を生きる多様性マネジメント

新興国台頭による市場拡大、国境を越えたパートナーシップ、働き方の多様化、マイノリティの登用など、多くの企業はダイバーシティ(多様性)に富んだ企業環境におかれている。本シリーズでは、各社米国拠点のキーパーソンへのインタビューを通じ、多様性に対するマネジメントの考え方や取り組みについて、現地での貴重な体験談等を交えて紹介する。


【第2回】 Toyota Motor North America,Inc

「もっと良い車、もっと良い方法を」
カイゼンを積み重ねるグローバル企業

企業はグローバル化の段階に応じてさまざまな異文化状況に直面する。この分野の権威であるナンシー・アドラー氏の組織進化論によれば、企業の国際化の段階・国際戦略を4つに分け、次のように論じている。

最初に、国内のみで活動してきた企業が第1段階。やがて、海外展開の第一歩として輸出や海外生産を行うようになると第2段階の国際企業。さらに国際化が進むと第3段階の多国籍企業と呼ばれる段階に入り、“海外拠点の現地化”が進み、「現地社員にもっと会社としての方向性や企業文化なるものを知ってもらおう」、あるいは「優秀な現地社員はさらにハイレベルで登用していこう」という動きが高まる。そして第4段階のグローバル企業は、グローバル最適化を常に視野に入れている段階である。つまり、グローバルな視点から最適な製品開発、製造、販売活動が模索されるのである。

今回お話を伺ったトヨタモーターノースアメリカの寺師社長からは、トヨタはまさにこの第4段階のグローバル企業に到達し、さらなる飛躍をめざしている姿が窺われた。

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寺師 茂樹 氏
てらし しげき

昭和55年、神戸大学大学院修士課程工学研究科修了後、トヨタ自動車工業株式会社に入社。トヨタ自動車株式会社第1トヨタセンターZSエグゼクティブ・チーフエンジニア、トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ株式会社(TEMA)執行副社長、トヨタ自動車株式会社北米本部本部長を経て、現在、トヨタモーターノースアメリカ株式会社取締役社長兼COO、TEMA取締役社長兼CEOを務める。

◆トヨタはアメリカに参入してから55年が経っています。その当時から現在まで、米国トヨタはどのように変遷してきていますか。特に寺師さんが最初に北米に来られた2000年ごろと現在を比べるとどうでしょうか。

寺師:トヨタが北米に進出してきたこと自体はずいぶん前になるのですが、すべての機能が揃って一緒に出てきたわけではありません。まず販売が最初に北米にやってきました。次に生産です。そうすると部品の調達などが必要になってきますから調達機能も入ってくるようになります。その後開発が入ってきました。これは20年ほど前のことです。車の開発が現地に来ると、それを生産に持っていくための生産技術も同時に来ることになります。車の開発も最初の10年くらいは日本が開発し、北米で生産するものを手伝うという機能でした。しかしチーフエンジニアが北米に駐在して北米のエンジニアとともに実際に車を開発するという体制に移行したのが、私が最初に北米に来た2000年ごろのことです。

さらに2008年に私が2度目の駐在で北米に来たときには、また新たなフェーズが始まりました。

これまでは日本をお手本にしてきたのですが、さらに一歩進んで、企画から生産、販売まですべての機能を北米の中に整え、日本の力を借りずに自立したオペレーションを実行するという挑戦が始まったのです。

それに伴い、これまで車の開発の責任者であるチーフエンジニアはすべて日本人でしたが、生産も販売もさまざまな機能がローカルスタッフにシフトし始めましたので、チーフエンジニアについても2009年初頭に2人、2010年に1人、計3人のローカルスタッフを配置しました。その一人が、つい最近立ち上がったアバロンの開発責任者です。

ですから、最近になってようやくひとつの会社として自立できる機能がすべて揃ってきました。日本を見ながらも、いかに自立化できるかを考えています。しかし日本自体も常に進化していますから、こちらも相当の頑張りが必要です。

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◆今日ここに来て驚いたのですが、オフィスのあらゆる所にトヨタウェイの実践手法やカイゼンに関するプロジェクトの内容などさまざまな情報が貼り出され情報共有されています。「見える化」することで、価値観の共有や意識の醸成に繋げているのですね?

寺師:そうですね。トヨタには豊田綱領、トヨタ基本理念、トヨタウェイなど価値観に関するいろいろなものがあります。日常業務の現場を軸として、カイゼンを実践するモチベーションをみんなが共有するためにはどうしたら良いかというチャレンジを常に考えています。

オフィス内に情報をたくさん貼っているのも、目に見えるようにすると情報共有ができるだけではなく、自分との違いがわかり、それが日常で目に触れることで、多様な意見や価値観が出され、相互に尊重し受け入れるという基盤が自然と身につきます。

例えば、生産ではNAPJM(North American Production Joint Meetingの略)といって、みんなが集まって生産のことを話す機会があるのですが、それぞれの工場が日ごろの苦労や工夫などを共有し合うと、他の工場にも「気づき」が生まれます。そしてその後、チームみんなで工夫が見られた工場の現場を見学に行き、彼らのやり方をまねし、展開するのです。ですから「見える化」の延長線上には、「良いものはみんなで共有しよう」という「カイゼン」のマインドがあるのです。一つひとつ自分たち自身が良くしていこうというモチベーションが共有できるとさまざまなアイテムを取り込んでいく吸収力となります。それがトヨタに根づいているカルチャーです。私はもともとR&Dの人間で、生産などの経験はなかったのですが、生産現場に行き、こういう苦労があってそれをこんな風に工夫したなどと聞くと、今でも、すごいな!と感心し自分の知識がさらに増えていくのが楽しく感じます。

トヨタはこれまで機能が強い体制でした。しかしこのようなクロスファンクショナルな共有を行うことで、横の連携をもっと考えるようになりました。例えば生産と開発をとってみても、もし生産現場の人が困っているのを最初から開発の人が気づいていたら、もっと良い作業ができるような設計をする気配りだってできるわけです。

◆トヨタウェイには、チャレンジ、カイゼン、現地現物、リスペクト、チームワークという5つの要素がありますが、まさにその各要素が日常の現場に落とし込まれているのですね。常に顧客、市場の期待を超えるパフォーマンスを生み出していくためにはどんなチャレンジやカイゼンがされているのでしょうか?

寺師:まず、KPI(Key Performance Index)という、それぞれの項目に目標値を設定します。この目標値の設定の仕方ですが、日本の場合、目標値は高いものを掲げられるほど良いというようなカルチャーがあります。しかし、北米の場合は頑張れば達成できるというリーズナブルな目標設定の仕方をします。そこで、現状とのギャップを見極めながら、達成すると決めた目標値は必ず達成するというモチベーションが共有されています。

さらに、例えば品質の不具合検出を良くするというパフォーマンスなどについては、社内のKPIの設定と同時に、第三者機関による評価も目標軸に掲げます。例えばコンシューマーレポートのようなものです。そこで出された評価が低ければ、それを良くするにはどうするのか、そのためには社内KPIをどのように変えていけば良いのかというように、KPIの設定の仕方に至るまでカイゼンをしていこうというマインドが根づいています。

このように、ひとつの目標をみんなで共有化できているので、多様な人間が大勢いても、見ている方向は同じです。トヨタという企業の目標に対し、自分たちの日ごろの作業がそれにどう繋がっているのかについても、自分たちがそれぞれ目標値を持っているので、自分たちのめざすポジションはさまざまな人たちが自分たちのレベルで共有できているのです。

◆目標の共有とカイゼンのモチベーションがハイパフォーマンス・チームの秘訣ということですね。例えば新しい車両を開発する場合、新技術の採用とコストとのバランスが常に課題になると思いますが、具体的にどのようなチャレンジがありますか。

寺師:コストをある程度かけて良い車を作っていかなければなりませんが、逆に収益ばかりに気を取られて車がみすぼらしくなってもいけません。車全体の責任を負う立場にいるチーフエンジニアは、新車開発の際、その車のコンセプトや狙うターゲット、デザイン、コストなどすべてを提案書としてまとめ、トップにプレゼンテーションするのですが、そのときのポイントは「時代の流れを鑑みると、どこまで次の車を飛ばしていくのか」という点です。つまり、スタイリングだけではなく、最新の装備、性能、価格帯をどこまで進化させれば良いかということを、競合の車がどういう形で出てくるのかも予測しながらコンセプトをまとめるのです。自社が3歩進んでも競合が5歩進んだら相対的に遅れてしまいます。いろいろな商品の動きを読んで、どこまで先の技術、性能などを持ってくるのかを予測するわけです。その際、先の技術や性能を取り入れようとするとコストの問題に直面します。しかしコストを気にすると先に行けません。バランスを取るためには、仕入れ先やパートナー企業といかにコラボレートしていけるかがポイントになります。

現在は昔と違って日本で開発して日本で作るのではなく、現地で開発もして生産もするという現地の自立化の流れがあります。しかし、日本から完全に離れて独立するのではなく、コアの技術はやはり日本で開発されているため、現地でうまくそれを吸収して、現地の要望にあったものを開発し生産するのです。日本で開発しているものとアメリカで開発しているものが競争する機会も出てきますから、近年では、日本本社と海外現地法人はパートナーであり、よき競争相手でもあるのです。「競争と協調」ですね。

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