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◆商品開発や改善を行う際、現地の市場ニーズをいかに吸い上げて適合させていくかが重要になってくると思いますが、三菱ふそうは、アメリカ現地では開発や生産はしていませんね。アメリカ市場のニーズにとって鍵となるような情報を日本本社に伝え、商品開発のような重要意思決定プロセスに影響を与えるためにはどのような努力がありますか。

ブルーム:そこがまさにわれわれの弱い点でした。例えば「ドライバーはこのトラックをどう思っているか?」というような基本的な情報の共有さえ不十分でした。アメリカのドライバーは130kg、140kgの巨体で日本製のトラックを運転するわけです。彼らにとって座席の快適さはどうでしょう?

各市場で必要とされていることがらを、より明確・精緻に伝え、具体的に商品に反映できるのかがポイントです。例えば、アメリカのドライバーのニーズに関する情報をグローバルチームで共有した場合、オーストラリアやインドネシア、タイなど、他の地域のマネージャーたちも、それが彼らの市場でもアドバンテージになる機能だという「気づき」につながることもあるのです。各地のマネージャーたちがグローバルに連携して情報を共有すればするほど、良い結果につながります。

ですから積極的に、かつ率先してオープンな対話を促進させる努力が功を奏するのです。

◆グローバルでのコラボレーションが加速するとさまざまな多様性にも直面します。多様性を活かしながら組織運営していくためには、グローバルリーダーはどのような資質を持ち合わせている必要があるとお考えですか。

ブルーム:成功するリーダーが持ち合わせている資質は3つあると思います。ひとつ目は受容性です。組織のどの役職の人たちとも触れ合い、理解し合い、共鳴していくことのできる力だと思います。

2つ目は洞察力です。周囲で何が起こっているのか、察知し、聴く耳を持ち、鋭敏に対応することができる力です。そのためには、ただ「聞く」のではなく、本質を理解し、解決につなげることのできる積極的傾聴が必要です。

最後にコミュニケーション力です。特にグローバル社会において、人はあらゆる場所から情報を収集します。リーダーとして、価値観やめざすゴールなど、継続的にコミュニケーションを続けていかなければ、従業員は不必要な情報に気をそらされてしまいます。組織としてどんな方向を向いているのか、従業員は知りたがっているものです。ですから、例えば噂やニュースで何らかの情報が流れた場合、リーダーはそのことについてオープンに、自らの言葉で従業員に伝え、対話をしていかなければいけません。そうすることで、社内に安心感と自信がよみがえるのです。

私がMFTAの社長に就任したときのエピソードです。エクゼクティブオフィスは二階にあり、とても素晴らしく、広々としたオフィスです。そこが私のオフィスになると言われました。しかし私は言ったのです。「ここでは問題があります」と。すると「なぜですか? 歴代の社長は皆この席に座ってきました」と言われました。そこで私は尋ねました。「この階に従業員は上がってくることがあるのですか?」回答はこうでした。「いえいえ、誰も上がってきませんから邪魔されることはありません、ご心配なく。」、「私にとっては、それこそが問題なのです。」

びっくりされましたよ。しかしこれが私のスタイルです。つまり、オープンコミュニケーションを促進し、良き聴き手になるためには、自らを孤立させてしまっては有言実行できないのです。ここから私の組織内改革が始まりました。

◆ブルーム社長はとても人を大切にし、積極的に対話しながら従業員を育成していることが良くわかりました。次世代のリーダーを育成するためにはどのような点に気を使っていらっしゃいますか。

ブルーム:オープンコミュニケーションが有益であることを、身をもって示すことに尽きます。私が社長として就任したばかりのころは、自身の階級以外の従業員とオープンに対話をするという慣習はなく、タブーにさえ感じられました。例えば、レベル5の従業員がレベル2の従業員と直接話すということはなく、レベル2の上司がその上司と話し、さらにその上司と話し…、という具合でした。ですから、外部者だった私が入社してからは、私が社内を歩き回るだけで、従業員たちから「自分は何かしでかしたのだろうか?」という警戒心すら感じられました。

しかし私はこのスタイルを止めませんでした。むしろ、先ほど述べた通り、受容性を忘れずに相手に対して聴く耳を持ち、話の本質を見極めながら対話を行い、オープンコミュニケーションがいかに怖いものではなく利益となるものであるかを見せ続けることに注力しました。

管理職は従業員にとって威圧的なものであってはいけないのです。受容性が大切だとお伝えしたのはそういう意味からです。

例えば業績の上がらない従業員がいたとします。その際、社長が自らその人に電話をして注意したとしたら、それはとても威圧的に感じられてしまうでしょう。このような場合、その従業員の直属の上司とその部門のリーダーも含めてミーティングを行い、なぜこの従業員が成功していないのか、そしてどうしたら「われわれがチームとして」この従業員を支援し伸ばしてあげることができるのかというアプローチで対話をするのです。

組織のリーダーであるということは、組織の環境を作るということでもあります。しかしこれはひとりではできません。リーダーは、従業員たちを鼓舞し、彼らと対話をし、チームが一丸となって同じ方向に向かっていくことができるような環境づくりをするのです。そうすることで、次世代のリーダーもおのずと育っていくのです。

このようなオープンな環境づくりは時間がかかりますから、継続的に一貫した姿勢で行わなければいけません。しかし、それを重荷と感じるのではなく、対話をエンジョイするという姿勢が大切です。

一方でひとつ危険性もあるのです。コミュニケーションをオープンにすると、一人ひとりが自分自身の言動に責任を持つ必要が出てくるのです。つまり、ゴールや目的を明確に定義すると、それぞれの従業員の役割も明確に定義されることになり、ある人が、あるタスクを達成できなかったりした場合、それははっきりと明るみに出てしまうわけです。そのような状況を不快に感じる人もいます。

◆それを従業員が受け入れたときには組織としての生産性が向上するのですね。

ブルーム:はい。非常に大きく向上します。しかし受け入れられず、不快に感じる人たちにとっては、残念ながら、この会社は相性の良くない会社だということになります。そのような人がいた場合、その人は組織にとっての弱連結箇所となり、他のチームメンバーからも同様に見られることになります。リーダーとしてはそれを認め、対応をしなければならない場合もあるでしょう。改革にはつきものです。めざすのは、同じような価値観を共有することができるチームを構築していくことですから。そのようなチームが構築できていれば、難しい時期でも皆が目的をひとつにしてチャレンジを楽しみながらゴールに向かっていくことができるのです。

◆商品におけるグローバルでのコラボレーションはいかがでしょうか。国境を越えた他社とのパートナーシップがトラックという商品に何か反映されている特徴はありますか。

ブルーム:三菱ふそうでは、最良の品質を提供するとともに、「ランニングコストの低さ」というポジショニングを徹底するため、グローバルな供給プラットフォームを実践しています。

エンジンは非常に小さく高性能な4P10型ディーゼルエンジンを使用、これはイタリアのフィアットと共同開発したものです。排出ガス後処理システムはドイツのダイムラーの商標であるブルーテックを使用しています。燃料噴射装置はドイツのボッシュ製です。トランスミッションは日本の三菱ふそうが開発したデュオニックと呼ばれているものです。これは2つのクラッチが働くのですが、商用車で使われたのはわれわれのキャンターが初めてです。組み立てそのものは日本です。このようにグローバルな供給パートナーからわれわれのトラックに最適な部品を集積し生産しているのです。この結果、「ランニングコストの低さ」が実現できているわけです。

例えば競合トラックと比較すると、キャンターの燃費は20%優れています。サービス期間は通常6,000マイルごとですが、キャンターは18,000マイルごとで十分です。クオリティにも絶大な自信がありますので、保証期間も5年という長期間です。また、これは新技術ではありませんが、ドライバーの目の前にはマルチ機能ディスプレイが装備され、スピードからエンジン回転数、燃費、その他ドライバーに必要な情報が、シンプルなフォーマットですべて表示され、使いやすさの面でも非常に優れています。

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◆最後に、ブルーム社長にとってトラックと乗用車の大きな違い、特徴はどんな点でしょうか。

ブルーム:トラックは乗用車に比べて情緒面ではなく機能面がすべてという点が大きな特徴です。商用トラックは、モノをA地点からB地点に効率よく運ぶことが目的ですから、信頼性と耐久性が最も重要な要素です。信頼性は毎朝エンジンをかけ、問題なく動くという安心感から生まれ、それが何年も続くという安定感から耐久性が証明されます。

トラックを運転する人たちは、実は「トラック専門家」ではないのです。彼らは、食品業者や物流業者などですから、彼らにとってトラックは取り扱うモノを確実に運ぶための必要道具でしかないのです。今年の初めに私はオレゴンのベーカリーを訪れたのですが、その担当者は、パンを1斤焼くためにかかる材料費を1/10セントのレベルまで正確に知っていましたが、トラックのランニングコストについてはほとんど知らないのです。彼らにとって、トラックは2番目に高い経費であるというのにです。われわれの顧客は、それぞれの専門分野に集中することを求めていますから、トラックの専門家であるわれわれが、トラックに関するすべてのことに対応するという姿勢を貫くのがわれわれの姿勢です。

【あとがき】

確固たるブランドを構築するためには、商品そのものはもちろんのこと、市場に伝えるメッセージ、市場へのコミュニケーション方法、ブランドを代表する従業員やディーラーの一人ひとりの価値観に至るまで、一貫したストーリーが描かれなければならない。だからこそマーケティング畑のブルーム氏は、一貫して「ブランドの価値」と「オープンコミュニケーション」の大切さを繰り返し強調していたのだ。現地生産を行っていないMFTAにとって、優れたマーケティング・モデルを構築することこそが、成長に繋がる鍵だと言えよう。

(JAMAGAZINE編集室)

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