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5.樹脂

非金属材料の代表と言えるプラスチックは合成樹脂、あるいは単に樹脂と言われる。自動車分野では、複合材料の代表と言える繊維強化プラスチックも樹脂として取り扱っている。樹脂はオイルショックのころから軽量化目的で使用が増えてきた。その理由は、形状の出しやすさとコストダウンである。内外装部品はもちろんのこと、エンジンルーム内の機能部品をはじめとして、エレクトロニクスシステム、燃料システム、エアバッグやシートベルトなどの安全システム、さらには駆動・シャシー系の一部にまで使用されている。樹脂は軽い材料(比重は0.9〜2.5)だが、車両重量の1割程度を占めている。つまり樹脂なくしては自動車を製造し得ないと言える。

自動車に使用されている樹脂は多種多様である。主な樹脂は、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC、塩化ビニル樹脂)、ポリウレタン(PUR)、ABS樹脂、ポリエチレン(PE)、フェノール樹脂(PF)である。中でもPPはさまざまな改良や関連技術が開発された結果、適度な耐熱性、剛性、そして成形加工性を有し、自動車で使用される樹脂材料の約6割を占めるに至っている。国産車のほとんどに使用されている樹脂バンパーは、PPにゴムを添加したものであるが、PPが日本で技術導入により生産されたのは1962年である。

バンパーとして必要な剛性と耐衝撃性を確保しながら、バンパーの肉厚を薄くして軽量化を図った事例(マツダ・CX-5、2012年)など、地道な軽量化が継続してなされている。材料の代替として樹脂による軽量化の代表的な事例には、ポリアミド(ナイロン)製吸気マニホールド(富士重工業・サンバーディアス、1992年)や高密度ポリエチレン製燃料タンク(日産・プリメーラ、1990年)などがあるが、大きな軽量化の対象がボディである。
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バンパーの薄肉化により軽量化図ったCX-5 (右写真の上:フロントバンパー、下:リアバンパー)
写真提供:マツダ

(1)樹脂ボディ

1940年代初め、アメリカでガラス繊維を不飽和ポリエステルで固める技術が開発された。複合材料の幕開けとも言われる繊維強化プラスチック(FRP)の登場である。1953年にはスチールのフレームに外板全部がGFRP製の車(GM、コルベット)が登場している。Gはガラスを意味し、Gに代わりCがつくとカーボン(炭素)を意味する。つまり、マトリックス(母材の樹脂)にガラスやカーボンの強化繊維を入れ、強度や剛性を高めた材料がFRPである。炭素繊維は1960年代に登場する。7ミクロン(7/1,000mm)程度の細い繊維が、PAN(ポリ・アクリル・ニトリル)樹脂を炭化して作られる。ガラス繊維に比べ軽く、かつ強度と剛性に優れている。

最新鋭の航空機では、機体の半分をアルミからCFRPに代替している。この材料の比重は1.6でアルミ(比重2.7)より軽く、その強度は機体に用いられるアルミに比べ5倍程度強度が高いとのことで、軽量化の効果は大きい。機体重量の2割の軽量化が可能と指摘されている。1970年代から機体に対しCFRPの適用が検討されたとのことだが、CFRPの採用は画期的であると同時に、耐久性、信頼性、メンテナンスを含む品質の確保などを考えると、驚嘆させられるものがある。新たな材料の使用にあたり、基本となる強度信頼性の検討においても膨大なデータが必要である。

このCFRPの製法はオートクレーブ工法であり、レーシングカーのオール樹脂ボディもこの工法で作られる。オートクレーブ工法はプリプレグ(エポキシ樹脂を炭素繊維に含浸させた素材)を型に合わせて積層し、オートクレーブ(圧力炉)で加圧・加熱して樹脂を硬化させて部材を作る方法である。この硬化工程に時間がかかることが生産性の問題となっている。その工程時間の短縮方法とも関連するが、材料開発では成形性、含浸性、繊維との界面強度に優れる樹脂が求められる。

自動車において機体と同様な試みがなされている事例(トヨタ・LEXUS LFA、2010年)がある。35%がアルミで、65%がCFRPの樹脂ボディである。前後フード、ルーフはCFRPである。衝突安全時に重要な役割を持つフロントサイドメンバはアルミとのことであるが、その前端に衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスを備え衝突安全に対処している。ボディ成形には、上記のオートクレーブ工法と、生産性が良いRTM(Resin Transfer Molding)やSMC(Sheet Molding Compound)が採用されている。ボディ骨格は190kgと軽いが、ボディ剛性はスチールボディの2倍以上を達成している。この軽量・高剛性ボディは、同形状のアルミボディに比べ100kgの軽量化と指摘されている。

CFRPは構造用材料として優れた特性を持つが、自動車は商品であるので、コストと生産性が問題である。自動車ではCFRP製プロペラシャフト(トヨタ・マークII、チェイサー、クレスタの最高級グレード、1992年/三菱・パジェロ、1999年)が比較的知られているが、広がりを見せていない。樹脂ボディも同様なのかは今後の検討を待たねばならないが、CFRPの生産技術の向上があり、樹脂ボディによる大きな軽量化は、特に積載電池が重いEVにおいて重視されているので、その動向が注視される。

(2)ボディパネル

ボディ外板のすべてに樹脂を採用した車(マツダ・AZ-1、1992年)では、樹脂製外板は鋼板製に比べて剛性が低いので、ボディに必要な剛性は内板と構造部位で構成された構造体(スケルトンモノコックと呼んでいる)で受け持っている。この特殊な例を除くと、樹脂のボディへの適用箇所は、フロントフード、フェンダー、ドアなどである。

アルミから樹脂(CFRP)製のフロントフードとなることで、約4kg軽くなっている事例(日産・GT-R V・SPECII、2000年)がある。鋼板製20kg、アルミ製12kg、CFRP製8kgと材料の置換による軽量化の効果が大きい。このフードは、オートクレーブを必要としないRTM成形法で生産されている。今日では当時のエポキシ硬化時間の短縮など大幅な成形法の改善がなされている。フロントフードは交通事故時の歩行者保護の点からも重要な部位であるので、鉄、アルミ、樹脂がそれぞれの長所を伸ばしつつ競合することを期待している。

CFRP製フロントフードは雑誌などでカーボンボンネットと称される。類似の表現のカーボンブレーキはC/Cコンポジット(Carbon fiber reinforced Carbon Composite)で、複合材料の種類は異なることを指摘しておきたい。この素材をブレーキとして最初に導入したのが超音速機のコンコルドである(ちなみに、カーボンセラミックブレーキといえば、C/CコンポジットにセラミックスであるSiCが含有されているものである)。

樹脂(ポリマーアロイ)による軽量化事例を見ると、フェンダーの事例(三菱・デリカD:5、2007年)では、鋼板製に比べ2kgの軽量化(左右2つで合計4kg)である。開閉時軽いことが求められるバックドアの事例(マツダ・プレマシー、2005年)では4.5kgの軽量化となっている。樹脂のボディへの採用は、アルミに比べ広がりを見せていないが、フェンダーへの採用例は比較的多く認められる。

植物性プラスチック(バイオマスプラスチック)は、資源枯渇の視点から重視されるが、超小型EV車のボディパネルに利用することが検討されている。植物のケナフから樹脂(リグニン)をつくり、リグニン樹脂とケナフ繊維、リグニン樹脂とマオ繊維の複合材料として使用する試みである。試作段階(トヨタ車体・COMS、2007年)であるが、ガラス繊維や炭素繊維でなく、天然繊維を強化材に用いる複合材はユニークである。環境低減型材料の視点からもその進化が期待される。

(3)樹脂ウインドウ

2リットルクラス乗用車を重量分析すると、ガラスの重量は33kgで結構重い。そのため、1980年代よりガラス(比重2.5)から樹脂(ポリカーボネート、比重1.2)への代替が検討され、昨今クローズアップされている。その背景には材料、射出成形そしてコーティングなどの品質を保証する生産技術の向上がある。軽量化の視点では、樹脂は鉄やアルミなどの金属ばかりでなくガラスとも競合していると言える。

ポリカーボネート(PC)は、1950年代に開発された樹脂である。PCをガラスの代替として利用する場合、PCにハードコートの表面処理が必須となる。PCはガラスに比べ軽量で成形性のよさからデザインの自由度があるが、傷がつきやすいことと、紫外線により黄変など耐候性の問題があるためである。この大きな2つの弱点をカバーするためにPC表面にコーティングをして、車のルーフに実用(MCC・スマートフォーツー、2007年)されている。目的は違うが、ボディの塗装と似ている。さらにワイパーがつくリアウインドウ、昇降するサイドウインドウへの採用のため、耐傷付性の向上を図るコーティング技術が検討されている。

PCの機械的性質において大きな特徴は、耐衝撃性である。強靭な樹脂製ドアをアピールした事例(GM・サターン、1990年)が印象に残っている。PCは脆性材料のガラスと異なり、金属材料のように延性であるが、破断伸びの割合(引張破壊呼び歪)は100%程度であり、たいへん大きい。強度(引張降伏応力)は65MPa程度でガラスと大差はないが、弾性率は2.3GPa程度で、ガラスの70GPaに比べたいへん小さい。つまり、ガラスに比べ変形しやすい。また、熱膨張率(線膨張係数)は70×10−6/Kで、ガラスの9×10−6/Kに比べたいへん大きいので、温度変化に対する伸縮量がガラスに比べたいへん大きくなる。例えば、長さ1mの物体の温度が50℃上昇したとすると、PCは3.5mm伸びるのに対し、ガラスは0.45mmである。ちなみに、鉄は0.6mm、アルミは1.2mmとなる。

軽量化の視点で見ると、樹脂ウインドウが大きな役割を果たすパーツが大型サンルーフと思われる。1.5m2のパノラマルーフの試作例(トヨタ・RAV4、2008年)を見ると、ガラス製が20kgに対しPC製は11kgである。PC製は、ガラス製の約6割程度の重さとなっている。使用上軽くすることが求められるリムーバブルルーフの事例(GM・コルベット、2005年)を見ると、ガラス部分が6kgからPCにして3.6kgとなっているので、PCのルーフへの採用により重さはガラスの6割程度であると言える。最近の1.6m2のサンルーフの事例(トヨタ・プリウスα、2011年)を見ても、ガラス製の20kgからPC製では12kgということで、同様な軽量化の割合である。
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国産初の樹脂ルーフ装着車、プリウスα
写真提供:トヨタ自動車

視点を変えて、1.5 m2樹脂ルーフをスチールルーフと考えると、通常使用されている厚さが0.6mmの鋼板(比重7.9)では7.1kgとなり、スチールルーフのほうが軽い。つまり、樹脂ルーフによる軽量化は、スチールボディの開放化を目的としてガラスを採用し、その結果、重くなったものを軽くすることとなったので、スチールボディに対するアルミの軽量化とは、その内容が異なる。樹脂ウインドウの長期の実走行における耐候性が気になるが、開放感を与え、スチールとガラスでは達成できないボディのスタイリングを大幅に変える可能性がある樹脂ウインドウに期待している。

6.おわりに

自動車の3大材料を軽量化の視点で概観したが、主役の鉄、対抗するアルミと樹脂、という大きな流れを述べた。部品の軽量化は進んでいるが、利便性、排ガスや安全対策のため搭載部品は増大し、2001年の乗用車の平均重量を見ると、1980年の1.38倍、1990年の1.13倍となっている。皮肉なことに商品としての車は重くなっているので、地道に軽量化を進める必要がある。そこに材料が果たす役割は大きい。

ボディの骨格材料としての樹脂(CFRP)の登場は、新たなボディを構築する契機になる。鉄、アルミそして樹脂の3大材料がボディについても競合できる段階になるには、鉄の力があまりにも大きいが、ボディパーツについて議論が可能になるという点が重要であると思っている。安全対策の点からもボディは、その構造も含め材料とその加工法そして接合法が検討され、進化していくものと思われる。

クルマ社会と言われ約60年、地球上で10億台近く保有されている車がさらに生産され続けることを考えると、以前から話題に上っている石油枯渇と同様、鉱物資源についても考える必要がある。ワイヤハーネスの銅、めっきの亜鉛、バッテリーの鉛などの金属資源は鉄に比べかなり少ない。鉄鉱石さえも中国において数珠繋ぎのダンプに積まれていく映像を見ると、資源が消えていくイメージが浮かぶ。化石燃料と同様、材料を使用するということは資源をなくしていることになる。その意味で、リサイクル再生材とその品質向上、植物材料などの新たな材料の開発とともにメンテナンスが容易で長期の使用に耐える車の登場が期待される。

(こう ゆきお)

参考文献

  1. 高 行男、JAMAGAZINE、日本自動車工業会、40巻、2006年3月号
  2. 高 行男、JAMAGAZINE、日本自動車工業会、44巻、2010年2月号
  3. 高 行男、アルミニウム、日本アルミニウム協会、13巻、2006年
  4. 高 行男、工業材料、55巻、6号、2007年
  5. 高 行男、自動車材料入門、東京電機大学出版局、2009年
  6. 高 行男、アルミVS鉄ボディ、山海堂、2002年
  7. 高 行男、ポリファイル、47巻、551号−554号、2010年
  8. 自動車技術会、自動車技術、61巻、10号、2007;62巻、4号、2008年;64巻、7号、2010;64巻、11号、2010;66巻、10号、2012
  9. Automotive Technology、2012年11月号

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