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連載/クルマの楽しさ、素晴らしさとは


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全日本学生フォーミュラ大会への初出場をめざすセミナー

自動車を生涯のパートナーに

[JAMAGAZINE編集室]

[第57回]

自動車大学校は文部科学大臣が指定する専修学校で、「高度専門士」の称号を付与することができる課程を持つ学校。国土交通省が2002年から一級自動車整備士養成課程の設置の指定を開始したものである。

今回は、そんな自動車大学校の中から東京工科自動車大学校・世田谷校を訪ね、若者たちと日々接していらっしゃる先生の実感、またそこで学ぶ若者たちのクルマに対する思いや考え方を直接うかがってきた。

●東京工科自動車大学校の概要

同校(世田谷校)には「1級自動車エンジニア科」「自動車整備科」と首都圏では唯一という「自動車整備2級科(夜間)」がある。

「1級自動車エンジニア科」(4年制・一級取得課程)では、一級自動車整備士の資格を取りつつ、自動車開発エンジニアをめざすことができ、そこで技術力や知識を4年間で磨き上げていく。また、日々変化していく自動車の燃料や環境問題、安全面などに対応できる技術者を育てることを目標としている。

「自動車整備科」(2年制・二級取得課程/一級課程に編入できる)は、自動車整備士になるために必要な教材を、四輪・二輪を問わず国産車から外国車まで幅広く用意しており、それらを活用した実習と充実したカリキュラムで、基本から応用までを習得し、ワンランク上の整備エンジニアをめざしている。また、キャリア教育にも力を入れており、研修などを通して社会人として必要な人間力やコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を磨き上げている。

「自動車整備2級科(夜間)」(3年制・二級取得課程/一級課程に編入できる)は、働きながら、また大学に通いながら、といった状況の中で、自動車整備士への夢や、自動車のことをあらためて勉強し直したいという思いをしっかりとサポートする課程。二級自動車整備士の取得を目標として、3年間しっかりと学べる。

●若者とクルマ・バイク

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東京工科自動車大学校・世田谷校
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山口泰之先生
今回、学校を案内してくださったのは、1級自動車エンジニア科科長の山口泰之先生。

まず、先生に最近の若者のクルマやバイクに対する意識についてうかがってみた。

「高校にガイダンスに行くことがあるのですが、10年以上前は、生徒さんが大勢集まってくれていました。小型のエンジンを持っていって「整備体験をやります」と言うと、1回当たりだいたい20〜30人くらい集まりました。その後、今から5年ほど前だったでしょうか、工業高校でのガイダンスということで、燃焼実験的なことをやろうと思って出かけたときのことです。私どもの関連校では、IT関連や環境、バイオ、建築等の授業を行っている学校もあり、それらも含めて説明させていただきました。驚いたのは、説明のあとで「では、この中で自動車科を志望する人はいますか?」と聞いたところ、ひとりも手を上げなかったのです。だれもいなかった。「ではどこを志望していますか」と聞くと、ITなどのコンピュータ関係が多かったのです。ゲームプログラミングとかゲームソフト、ウェブデザイナー、あとはバイオテクノロジーなどでした。

校内にいると感じないのですが、やはり外へ出て高校生のニーズを聞くと、やはり私たちの感覚とちょっと違うのかなと思いました。

しかし、現在は徐々にではありますが、復活傾向にあるということは感じています。先日も高校にレース用の車両を持ち込みましたが、特に自動車関係を志望していない生徒さんも、ちょっとエンジンをかけていいですかと言ってくれたりしました。高校の先生方も就職が好調だということを理解してくださっているという状況はあると思います。

高校生は、親御さんや高校の先生の意見の影響を受けやすいので、私の個人的な考えとしては、そういった方々の自動車業界に対する評価が、高校生に対して影響が大きいのではないかと思います。

実際、当校の学生の親御さんたちはクルマ好きの方が多いですね。志望動機を聞くと、父親がクルマ好きで整備を自分でやっていたとか、父親がいろいろなクルマに乗っていたといった話を聞きます。」

取材に訪れた日は同校の「セミナー日」にあたり、学生の皆さんが、それぞれのテーマを持って、自分たちで取り組む「セミナー」のようすを見学させていただくことができた。

4つのセミナーで、それぞれのリーダーを中心に、この学校へ入ったきっかけ、就きたい仕事、夢などについて話をお聞きした。

●初挑戦! 学生フォーミュラ大会

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夢はお父さんがつくったクルマだと伝えること
同校は、毎年行われている「全日本学生フォーミュラ大会」に、今年初出場することを決めている。彼らのチームリーダーに、なぜこの学校に入ったのか、ということから聞いてみた。

「整備士の資格が取れて、なおかつ設計・開発系に進める学校ということで、ここに進学しました。

最初はバイクに興味を持っていました。就職の希望先はやっぱり自動車メーカーです。大学進学も考えたのですが、大学ではクルマを詳しく学べないのではないかと思いました。整備士の資格を取って、自動車のことをしっかりわかった上でクルマづくりをしたほうがいいんじゃないかと思ったのです。

僕の夢としては、将来結婚して子どもができたとき、あれはお父さんが作ったクルマなんだよ、と言いたいこと、そしてもうひとつ、世の中の人に感謝されるようになりたい、役に立てるようなクルマを作りたいということです。

若者のクルマ離れということが言われています。それは自動車会社も魅力的なクルマを作らないからだというようなことも言われます。でも、コストを抑えたり、デザインを絞ったり、いろいろ制約の中でやっているんじゃないかなと思います。

フォーミュラ大会の目標は『今年は、まず出場すること』です。エントリーして、書類審査に通って、そして、このクルマを静岡に持っていければいいと思っています。そこから先は、後輩たちに託します。

初めてなので、さぐりさぐりですが、それも含めてデータにして後輩たちにつなげていけたらいいなと思います。まず、走る・曲がる・止まるというクルマの基本ができればいいと思っています。」

●温度とオイルの研究

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ペットボトルを利用した手づくりの粘度計
続いて、オイルの粘度が気温によって変わるということを研究・実験しているセミナーにお邪魔して、その研究の内容を尋ねた。

「温度が0℃、40℃、80℃で、どれくらいの変化があるか、手づくりの『オイル粘度計』でデータを採集して探っています。

この研究をしようとしたきっかけは、オイル時計を作ろうとしたときに、温度によって10分くらい時間がずれてしまって、なぜだろうということになったんです。オイルでそんなに時間が変わるなんて思っていなかったのです。そこから温度とオイルの粘度について調べていこうということになりました。

自分の将来については、最初、設計の仕事をやりたいと思っていました。でも『自動車』を仕事にすると、知りたくない部分も受け入れなくてはならない場面もあると思うんです。例えば、このクルマで言うと、この部分がダメなんだなどというところも知ることになりますよね。それで、趣味と仕事は違うということに気づいたんです。だから今は、事故原因を調べる保険会社のアジャスター(自動車の物損事故による損害額や事故の原因・状況などの調査を行う)の仕事に就きたいと思っています。クルマが好きなので、ずっと乗り手でいたいな、と思っているんです。

いまは渋滞もけっこう多いですし、そのせいで事故も多いですよね。ですから事故がなくなっていくクルマが将来どんどん増えていってほしいと思います。」

●6時間耐久レースで腕を磨く

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6耐に参戦するクルマを整備
年2回の耐久レースに出場するセミナーでは、ドライバー、ピットクルーなど総勢10名が、すべて自分たちでレースを作っていく。

彼らにも、学ぶ姿勢とクルマへの思いを聞いた。

「楽しさと緊張のほどよいバランスのうえで取り組んでいます。でもレース前はやっぱり緊張しますね。

もともとクルマが好きでこの学校に入りました。高校に自動車科があったので、その延長線上です。

僕は乗ることが好きなので、仕事に関しては、テストドライバーとか試験走行する仕事に就きたいと思っています。いまいろいろ調べているところですが、なぜこのセミナーに入ったかというと、自分たちでレースができるからです。もともとそれがしたくて入ったようなものです。個人的にレースをするのは難しいので、やれるときにやっておきたいと思ったのです。

趣味として乗れるクルマが昔に比べて少なくなってきている気がするので、これからそういったクルマが出てくるといいと思います。

現在はエコに配慮するということもあって、おとなしいクルマが多いですね。それとマニュアル車が少ないということ。主流はこれからもそういうクルマであるのかもしれませんが、それとは別のものを求めている人たちのために、電気・電子機器も少なくて、熱い想いを持っているようなクルマがいいですね。極論すると実用性を無視していて、それでいてあまり値段が高くない、そんなクルマをつくりたいと思います。やっぱり、乗っていて楽しくなければクルマじゃないと思います。」

このセミナーのメンバーは、全員が「小さいころからクルマが好きだったのは、父親がクルマ好きだった影響があります」と述べていた。

●材料と遮音の関係をデータ化する

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メンバー全員の父親がクルマ好き
最後に、騒音を計測し、材料との関係を調べていくうち、500Hzのところだけ遮音がうまくできない結果となり、その原因を究明しようとするセミナーにうかがった。

「新たな材料も使用し、かつコストも考えて実験・計測を続けています。材料にセメントを使っているクルマもあるようですが、自分たちでできる範囲の材料をまず集めて、それらを調べています。

この缶をクルマのボディに見立てて、底に開けた穴から騒音計を差し込み、ふたの裏に材料を貼っています。

それぞれ50回ずつ調べていくので、けっこうな作業量になってたいへんです。

自分でクルマを直したいという気持ちが強くあるので、将来はメーカー系、部品製造に携わりたいと思っています。仕事に就いたら、だれが乗っても快適なクルマ、だれにでもいいなと思ってもらえるクルマを作りたいと思います。そういう意味では騒音もけっこう気になる要素だと思います。」

●クルマを嫌いにならずに、生涯のパートナーとしてほしい

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ボディに見立てた缶の底に騒音計を差し込み、データを収集
再び山口先生に、学生たちに伝えたいことをお聞きした。

「クルマの勉強をしてクルマの仕事をするという一貫した歩みを続けてきたわけですから、クルマを嫌いにならないでほしいと思います。仕事でなくても趣味ということでもいいのです。

結婚して子どもができて親になるという過程で、クルマとのかかわり合い方がいろいろと変わってくると思います。例えば、ファミリーカーに乗ったり、ワンボックスカーに乗ったりということがあると思います。そんな中で、クルマを生涯のパートナーにしてくれるとうれしいですね。」

ここには、自動車について学び、自動車についての考え方をそれぞれに持ち、その思いを実現しようとする若者たちがいた。

(JAMAGAZINE編集室)

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