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記者の窓
「バルンバルン バルバルーッ」

写真
三木 崇
神奈川新聞社

◇往年の名車が相次いでリバイバルされている。名車の魅力は人それぞれだが、やはりその洗練されたデザインにあるだろう。リバイバル車は先代のデザインを踏襲しながらも、燃費や安全性、快適性などの基本性能が格段に向上している。「クルマ離れ」が進んでいるとされている若い世代からも関心が高く寄せられている。

なぜ、名車に関心が集まるのか。名車をこよなく愛するイラストレーターで、神奈川県葉山町に住む小森誠さん(64)の説明は明快だ。新車の開発競争が激しさを増す中、「工業製品としてのクルマはどんどん進んでいくが、自分の郷愁、共感してきたものが置いていかれる気がする」。つまり名車復活は、クルマの原点回帰とも言えるわけだ。

◇小森さんは60年代の国内外の名車を題材にした絵本を手がけてきた。クルマの絵本を描くようになったのは、自動車雑誌『カー・アンド・ドライバー』の表紙イラストを担当した縁がきっかけ。1999年に、英国の小さなスポーツカー「オースチン・ヒーレー・スプライト」を主人公にした『バルンくん』(福音館書店)を発表したところ人気が出た。

『バルンくん』は4部作で、1960年代の欧米のさまざまな名車とレースをしたり、ドライブに出かけたりと大活躍。正面から見れば、カニの目のように出っ張った丸いヘッドライトは大きな瞳のよう。絵本に登場する他のクルマも丸い「目」や、笑っている「口」のようなラジエーターグリルなど、それぞれ豊かな表情を示している。

◇クルマの性能は「走る、止まる、曲がる」と同じ。機能が一緒ならばデザインはあまり変えられないはずだが、各国の名車は微妙に違う。それぞれのクルマを観察した小森さんは「デザイナーは相当苦労したのだろう」と笑う。小森さんに聞くと、60年代は「クルマと人の仲が良かった時代」。つまり、エンジンの音やにおい、水温計の温度を確かめながら運転したという。愛くるしいデザインはまさに、人から愛される存在だった当時の名残だったのでは、と思えてきた。

子どもたちが「バルンくん」で喜ぶのは、実は、デザインではなく「バルンバルン バルバルーッ」という軽快なエンジン音だと、小森さんは明かしてくれた。もちろん、クルマの種類によってエンジン音は大きく違う。「それを読み上げる大人のほうが熱中する」と小森さん。子どもよりもお父さん、そしておじいちゃんが夢中になるという。懐かしいエンジン音を納得いくまで再現しようとする大人たちの姿に触れて、子どもがクルマを好きになる、というのだ。

◇エンジン音に胸のときめきを感じるのは確かに郷愁の思いからだろう。「バルンくん」の特徴だった大きなヘッドライトも、発光ダイオード(LED)を使えばどんどん「目」は小さくなるだろう。電気自動車(EV)はグリルの「口」が必要ではなくなり、エンジン音はまったくなくなる。時代が大きく変わったとしても、人とクルマの関係は脈々と築いていくもの。例えば、リバイバルされた名車に乗る若者たちが何を感じ取るだろうか。そこにも、「バルンくん」のように、世代を超えて受け継がれるクルマへの思いもきっとあるはずだ。

(みき たかし)

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