自動車業界としての新型コロナウイルス対策支援について

一般社団法人日本自動車工業会(以下自工会)、一般社団法人日本自動車部品工業会(以下部工会)、一般社団法人日本自動車車体工業会(以下車工会)、一般社団法人日本自動車機械器具工業会(以下自機工)の自動車工業4団体では、「医療現場を始め、新型コロナウイルスの脅威と闘っている方々のお役に少しでも立っていきたい」との想いから、業界一丸となった取組みを進めております。
会員各社における医療現場等への支援内容の具体例につきましては、本ページにて順次ご紹介して参ります。

医療支援の事例紹介

トレーラータイプ「移動型PCR検査施設」を開発【ジェイテクト】

移動型PCR検査施設

徳島県立中央病院(徳島県徳島市)で使われる移動型PCR検査施設。移動式なので福祉施設や避難所などに出向いて検査ができる。

電動パワーステアリングを初めて開発・量産し、今でも世界シェアで3割を握る株式会社ジェイテクト。新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、トレーラータイプの「移動型PCR検査施設」を急きょ開発し、徳島県に提供しました。東日本大震災の被災地支援をルーツとする、トヨタグループ「ココロハコブプロジェクト」の一環ですが、研究開発部門を率いる林田一徳常務役員は「MaaS(サービスとしてのモビリティ)の取り組みとしても考えている」と話す、本医療支援についてご紹介します。

「ココロハコブプロジェクト」 とは、東日本大震災の被災地を支援するために、全国から「心を運ぶ」という気持ちを込めて、トヨタ自動車、トヨタ販売店及びその従業員が、継続的かつ長期的に実施してきた支援活動の総称です。今回は、新型コロナウイルス感染症で闘病中の方、日夜奮闘されている医療従事者・政府・自治体関係者の皆様に対して、何か貢献できないかとの思いから、トヨタグループが力を合わせて取り組む支援活動の総称を「ココロハコブプロジェクト」といたしました。

もともと縁の深い徳島県で産学連携を強化

自動車メーカーや他のサプライヤーと同じように、ジェイテクトも需給の緩和に向けて従業員用のマスクを内製したり、グループの光洋機械工業株式会社(大阪府八尾市)が医療従事者用の防護服800枚を作り、地元の八尾市立病院に寄贈したりと新型コロナウイルス対策に貢献してきました。移動型PCR検査施設の開発と提供もこの一環で、国立大学法人・徳島大学(徳島県徳島市)と開発を進めていた「移動式試験施設」を急きょ、改造したものです。
ジェイテクトの前身の1社である旧光洋精工の創業者、池田善一郎氏が四国出身であり、今でもベアリングを製造する四国工場(徳島県板野郡)やグループ会社があります。徳島大はまた、理工学部のほか医学、薬学、自然科学など幅広い学術領域を持ち、産学連携を強化していたジェイテクトと2018年から共同研究を始めました。翌2019年には新たな領域でイノベーション(革新)を生み出そうと、両者は包括的な連携協定を結びました。
その後、研究ニーズを踏まえて移動式試験施設の開発を両者で進めてきましたが、新型コロナの感染拡大を受け、衛生対策をすでに備えたこの施設での社会貢献、具体的にはPCR検査施設に使えないかと、今年4月から改造に着手しました。

林田一徳常務役員(研究開発本部長)=写真左=と松本崇FFR部長

「やりたいこと」ではなく「どうしたら喜んでもらえるか」

改造を手がけたのは同社研究開発本部の「FFR部」です。同部は新たな事業領域を開拓するため約4年前に新設されました。FFRとは「フューチャー&フロンティアリサーチ」の略です。松本崇FFR部長は「コロナ禍で“我々には何ができるんだろう”と議論しました。苦労したのは“何が求められているか”です。我々がやりたいことをやればお役に立てるわけではないので、病気をご心配される人や医療従事者にどうしたら喜んでもらえるかという視点で議論を重ねながらこういう形になりました」と振り返ります。

約12平方メートルのトレーラー内はウイルスを拡散させないよう陰圧仕様とし、クリーンルームにも用いられるHEPAフィルターでウイルスを吸着除去します。施設としてはWHO(世界保険機関)などが定める「BSL(バイオセーフティレベル)2」に合致しており、PCR検査装置のほか滅菌装置や冷蔵・冷凍保管庫、流し台なども備えています。7月17日から徳島県立中央病院で検査が開始され、8月末までに35件の検査を実施したといいます。
ジェイテクトは今後、医療従事者などからの意見を踏まえ、完成度を高めたトレーラーをもう1台製作し、今年中にも徳島県に提供する予定です。県では「これまでは移動式という発想がなかったが、今後は広く活用していければと思っている」(保健福祉部健康づくり課)と話しています。

コロナ支援やオープンイノベーションがSDGsのゴールを引き寄せる

相次ぐ大規模な自然災害やコロナ禍で国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)が注目されています。自動車産業と縁が深いのは環境保護や交通事故死者の抑制で、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やMaaSもこうした延長線上にあります。林田常務役員は今回の移動型PCR検査施設の発想を応用し「色々な移動体の中で、皆様方に使ってもらえるような施設が考えられる」と話します。
一方、徳島大との包括協定のもとで進める研究は自動車分野に限りません。今年5月には、徳島大学のベンチャー企業と提携し、食用コオロギの生産を目指すと発表しました。食用コオロギは飼育時の環境負荷が小さく、良質なタンパク源を供給できるとして注目されています。徳島大では約30年前からコオロギの研究に取り組んでおり、ジェイテクトも2019年から研究に加わりました。同社の自動化技術やIoT(モノのインターネット)技術、品質管理技術を駆使し、効率的に食用コオロギを生産するのが狙いです。
ジェイテクトに限らず、自動車産業が研究開発や設計、生産、品質管理など各部門で築き上げた膨大なノウハウは、他の産業やスタートアップ企業にとって“宝の山”と言えるでしょう。オープンイノベーションや、今回のような業界を挙げたコロナ対策への取り組みによって、こうした人材やノウハウが世の中に広く浸透していけば、SDGsが目指すゴールもまた、近づいてくるのではないでしょうか。

ジェイテクト 林田一徳
常務役員・研究開発本部長

ジェイテクトは電動パワーステアリングの世界シェアで約3割を占める

ジェイテクト 林田一徳 常務役員・研究開発本部長のコメント

我々は、ステアリングや駆動系のJTEKTブランド、軸受のKoyoブランド、工作機械・メカトロニクスのTOYODAブランドを持っています。この3ブランド・4事業本部の技術を活かし、シナジーでOne JTEKTとして色々な開発を進めているところです。私が担当する研究開発本部は色々なコア技術を持っていますが、4年ほど前には、4事業本部にとらわれない、新しい領域の研究開発をしていこうとFFR(フューチャー&フロンティアリサーチ)部を立ち上げました。

新領域では、このFFR部であったり、人工知能(AI)も手がけるデータアナリティクス研究部などをベースに、既存の事業が持っているコア技術、それからここ数年は外部の機関と一緒に連携し、アジャイル(機敏)に研究を推進するということで技術の創出を目指しています。新領域に挑戦する狙いは、我々の祖業であるものづくり、コトづくりを通じてSDGsへの貢献を目指すことです。とくに環境・エネルギー、生物資源に特化して取り組んでいます。
また、数年前から包括連携にも力を入れており、産業技術総合研究所や東京工業大学などと組んでいます。今回の移動型PCR検査施設は徳島大との包括連携の中で生まれたものです。徳島大は総合大学で、医学、薬学、生物資源、海洋関係など手広くやられている。最初は理工学部などからお付き合いしましたが、例えば医工連携のように、我々の工学的な立ち位置と医学や薬学、生物資源を一緒にやることで、特に新しい領域となると、なかなか社内にコア技術がないところを大学に期待しています。
私は研究開発を担当して5年ほどになります。社内にイノベーション(革新)を呼びかけていますが、最初の1、2年はなかなか響きませんでした。そこで「何のために仕事をしているのか」と問いかけてみました。もちろん最終的には「世のため人のため」という部分もありますが、1人ひとりに仕事で生きがいを感じてもらうことも大事で、このために環境や風土も変えてきました。最近は、今回のような新しい仕事にも抵抗なく入っていけるようなところがあって、結果が少しずつ出つつあると感じています。

医療支援の事例紹介

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