自動車業界としての新型コロナウイルス対策支援について

一般社団法人日本自動車工業会(以下自工会)、一般社団法人日本自動車部品工業会(以下部工会)、一般社団法人日本自動車車体工業会(以下車工会)、一般社団法人日本自動車機械器具工業会(以下自機工)の自動車工業4団体では、「医療現場を始め、新型コロナウイルスの脅威と闘っている方々のお役に少しでも立っていきたい」との想いから、業界一丸となった取組みを進めております。
会員各社における医療現場等への支援内容の具体例につきましては、本ページにて順次ご紹介して参ります。

医療支援の事例紹介

自動PCR検査システムのデモ設備を公開【川崎重工】

重工メーカーの川崎重工(橋本康彦社長、神戸市中央区)は10月22日、新型コロナウイルス向け自動PCR検査システムのデモ設備を東京ロボットセンター(東京都港区)で報道陣に公開しました。感染リスクを伴う検査をロボットで無人・自動化し、検体受付から病院との連携による結果通知まで80分以内で実施できるのが特長です。同社は2021年にも、この検査サービスを開始します。まずは国際的な人の往来の減少で大打撃を受ける航空業界の需要回復に向け、国内外の国際空港で搭乗前検査への導入を目指しています。

経済復興に向け、人の流動化を促進

新型コロナの感染拡大は人々の行動を制限し、さまざまな産業に大打撃を与えました。この解決策として川崎重工が打ち出すのが自動PCR検査システムによる検査サービスです。経済復興に向け、世界中で人の流動化を促進することが求められています。同社の社長直轄プロジェクト推進室の辻浩敏室長は「飛行機に搭乗する皆さんが安心して出発できるようにしたい」と同システムを開発する意義を説明します。当初は検査の無人・自動化で作業者の感染リスクを減らし、医療崩壊を防ぐことが最大の目的でした。しかし、コロナ禍が長期化する中で、疲弊したグローバルでの経済活動の再開・復興や21年夏の東京オリンピック・パラリンピックが控えることなどから、ビジネストラフィックを回復することも喫緊の社会課題として同社は捉えています。
現行のPCR検査は被検者から採取した唾液や鼻咽頭ぬぐい液などの検体を検査センターまで輸送していたため時間を要していました。現在、いくつかの空港内で検査を行う施設が整備され始めたところです。
PCR検査は、①分注・不活化②核酸抽出③PCR測定の3工程で構成されています。輸送時間だけではなく、分注や核酸抽出など人手のかかる作業があり、多数の検体を一度に処理する事で逆に時間が掛かる要因ともなっています。また、人手が介在することで感染リスクも必然と高まることになります。

ロボットによる無人・自動化で検査能力が向上

川崎重工が開発する検査システムは、検査の現地化やロボットによる無人・自動化でこうした課題を解決します。検査システムはコンテナにパッケージ化できるため、トレーラーによる搬送で全国どこにでも移動させることも可能です。サイズは2.5メートル×12メートル(40フィートコンテナ)。ロボットの活用で医療従事者の負担も大幅に軽減します。検査能力は1コンテナ当たり16時間で約2千検体です。
検体採取から結果通知までを80分以内で完了し、「受付から換算して約120分で陰性証明を発行できる」(辻室長)ことを目指しています。現行の検査システムがPCR測定の部分だけで210分かかることを考えると大幅な時間短縮が可能になります。
検査システムには世界的に承認を受けた検査方式「RT―PCR検査」を採用しています。世界標準のPCR検査を実施することで、相手国の了承は必要になりますが、発行した陰性証明を相手国への入国に利用しやすくなると考えており、実現できれば「現地で14日間待機することなく、商談などすぐにビジネスに取り掛かることができる」(辻室長)ことで経済復興に近づくことができます。

検査費用も大幅に抑えることが可能

同社は自動PCR検査システムの販売をメインにするのではなく、自社で空港やイベント会場で検査サービスを提供することを計画しています。想定価格は1万円を目指しています。市中病院の自由診療では「輸送費やクラスター(感染集団)発生を考慮した費用となっている」(辻室長)ため、3万~5万円が相場となっています。検査の現地化や無人・自動化によって、価格を大幅に抑えることが可能になると見込んでいます。空港や地元自治体、経済産業省や厚生労働省、外務省などの関係省庁との調整が整い次第、早ければ2021年の初めにもサービスを開始する予定です。
検査サービスは陰性が確定できない被検者が出た時も手厚い対応を行います。空港やイベント会場などから医療機関への送迎サービスを近隣交通会社と契約して実施することも検討しています。運転者と非陰性者が金銭のやり取りなど直接接触しない工夫を考えています。検査サービスを提供する場所の自治体や医療機関とも連携し、非陰性者を速やかに医療機関に移送する体制を整えます。

医療従事者の安全性確保、負担軽減

また、鼻咽頭ぬぐい液を採取する遠隔操作用ロボットの開発も進めています。現在は、スワブと呼ばれる綿棒状の検体採取キットを使って手作業で採取しています。採取には1人当たり2~3分必要で、PCR検査の検体として認める国が多い一方で、採取に時間が要するのが欠点でした。また、スワブを被検者の鼻に入れるとくしゃみや咳で唾液や鼻水が飛び散ることが多く、医療従事者が身に着けるガウンなどが被曝し、採取を続けるためにはガウンを着替える必要がありました。ロボットにはそうした煩雑さはなく、世界的に認められている検体の鼻咽頭ぬぐい液を人手で行うよりも同じ時間で10倍前後の人数をこなすことが可能になります。ロボットを遠隔操作する医療従事者は、スワブの先端にどのくらい圧力がかかっているか、鼻の中に何センチ入ったかをデータで把握できます。「これ以上は危険と判断すると、自動で止まるように制御する」(辻室長)など安全性も考慮しています。
保有するロボット技術の活用で、医師や医療従事者の負担を軽減し、PCR検査に必要な人件費と被検者の負担を軽減します。こうした画期的な検査サービスは日本のみならず、世界の主要空港にも提案する計画です。「世界の主要な空港近くに拠点を展開する」(辻室長)強みも生かします。来夏の東京オリンピック・パラリンピックでは空港だけではなく、選手村や競技会場近くのスペースに設置することで本格的な検査サービスを提供することも想定しています。

ご参考…川崎重工の検体採取後の自動PCR検査の工程

1、開栓分注工程は、検体採取の場所からベルトコンベアで運ばれてきた容器を開栓し、核酸抽出工程用に分注すると核酸抽出工程に搬送します。

2、核酸抽出工程は、採取した検体に試薬(物質を化学的方法で検出するのに使う薬品)を分注し反応させることで、核酸を抽出します。ロボットの台数を増やすことで処理能力を上げることも可能です。

3、試薬調整工程は、遺伝子増幅(PCR)に使用するための試薬を調整します。試薬は配合後短時間で使用できなくなるため、PCRセットアップ工程の直前に配合します。

4、核酸抽出した検体と試薬調整工程で配合した試薬をPCR処理装置(サーマルサイクラー)にセットし、検査を行います。検査結果はコンピュータを介して取得することが可能です。

5、検査結果のデータは医療機関に送信し、医師の判断に基づいて陰性証明を発行します。

川崎重工 社長直轄プロジェクト推進室室長 辻 浩敏(つじ・ひろとし)氏が語る

川崎重工業 辻 浩敏
社長直轄プロジェクト推進室室長

川崎重工は2020年度の初めから、ロボットを用いた移動式自動PCR検査システムの開発に取り組んでいます。当社の複数のカンパニーを横断したプロジェクトで、社長直轄プロジェクト推進室を中心に全社を挙げて実用化を目指しています。21年の早い時期には自動化した検査システムを使った検査サービスを空港やイベント会場など陰性証明を発行することで安心と安全が求められる場所で提供していきたいと考えています。
検査システム開発の目的は、医療従事者の感染リスクの低減に加え、経済復興に向け、人の流動化を促進することです。 特に空港関係のPCR検査は、世界で重要性が増しています。利用者は飛行機に搭乗する直前に自身が陰性であることが分かれば、安心して空の旅に出てもらうことができます。われわれのシステムを用いて医療機関により発行された陰性証明が、渡航先の国でも承認されれば、現地で14日間待機を強いられることなく、商談などビジネスに出向けるようになり、経済復興のスピードを高められると考えています。
現行のPCR検査は時間が掛かることが課題でした。なぜなら、被検者から唾液や鼻咽頭ぬぐい液を検体として採取し、1バッチ当たり96検体をまとめて検査会社が所有する拠点に輸送して検査するのが一般的だからです。国内の主要空港では多数の空港が検査のために検体を、県を跨いで輸送する必要があります。こうした検査以外の工程で時間を取られることが、現行システムのそもそものボトルネックになっています。もう一つは、検体採取や検査工程の開栓分注や核酸抽出に人手がかかることがあります。そこには時間がかかるうえ、感染リスクも孕んでいます。
これら2つの大きな課題を解決できるのが自動PCR検査システムです。全国どこでも一貫したPCR検査サービスの提供が可能で、ロボットによる無人・自動化で感染リスクも検査時間も低減させます。検査システムのサイズも船の輸送で使われる40フィートコンテナに収まるサイズで、人ならば密になりますが、ロボットではまったく問題ありません。
検査システムは販売するのではなく、検査サービスへの活用を考えています。空港会社などが費用面で二の足を踏むことを避けたいからです。検査サービスに積極的に関わることで、航空トラフィックの回復に全力で取り組みたいと考えています。

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